SNSで横行する著名人になりすました「偽広告」、プラットフォームの責任は?
丸橋 透(明治大学 法学部 教授) SNSでよく見かける、実業家や経済アナリストが勧誘する投資講座の広告。軽い気持ちでクリックすると、広告の著名人とは全く関係のない詐欺だった――。このようななりすまし型「偽広告」による「SNS型投資詐欺」の被害が拡大するなか、広告を掲載しているプラットフォームに法的責任はないのでしょうか。情報法を専門とする丸橋透教授が解説します。
◇プラットフォームに詐欺被害の責任は生じない!? 「SNS型投資詐欺」などと呼ばれる詐欺被害が相次いでいます。令和6年1~8月には警察の認知件数4,639件、被害額が641億円に達し、500万円以下の被害が多いですが1億円以上の被害も発生するなど深刻な状況です。 政府全体としては、犯罪対策閣僚会議において令和6年6月18日に決定した「国民を詐欺から守るための総合対策」において「オレオレ詐欺」「ロマンス詐欺」と並んで緊急対策を講ずるとされている大きな社会問題です。 この詐欺の入り口となっているのが、いわゆるなりすまし型の「偽広告」や投稿です。有名な実業家や経済アナリストなどの名前や写真を使い、投資講座などの投資関連サービスに見せかけた広告や発言をSNS等のプラットフォーム事業者(以下、PF)に出稿・投稿して勧誘しています。 法的に整理しますと、詐欺情報の発信者は刑事責任としては詐欺罪(またはその共犯)、民事責任としては詐欺被害者に対する損害賠償責任を問われます。また、なりすまされた著名人に対しては、肖像権やパブリシティ権の権利侵害による損害賠償責任が発生します。 しかし、この問題を複雑にしているのは、投資詐欺の当事者だけではなく「偽広告」や投稿を掲載したPFの責任をどのように考えるかという論点が重要であるためです。最近では、無断で肖像を使用された著名人が広告を掲載したPFに対して損害賠償や広告の差止めを求めて訴えたのが大きく報じられるとともに、詐欺の被害者もPF相手に訴訟を起こしています。 PFにおいてユーザが詐欺に引き込む情報を発信して閲覧者に詐欺被害が発生したとしても、場を提供しているにすぎないPFにはその被害に関する相当の因果関係が明確には認められないことから、また、広告媒体としてのPFも、特別の事情があって情報の真偽について調査する注意義務があるのにそれに反したとされるような場合を除き、原則として損害賠償等の責任は負わないとされています。 また、法令に抵触する情報や、他人の権利を侵害する情報(権利侵害情報)をまとめて違法情報と呼びますが、実は現在の法制度では、そのうち民事責任が生じない違法情報については、発信の場を提供するPFにそれを削除する義務を課した法律はほとんどありません。 とはいえ、現実問題としてPF側は「偽広告」や投稿を掲載しており、それが詐欺の入り口になって被害者が多数出ているわけですから、世論としては、PF側が対処する必要は一切ないとはさすがに考えないでしょう。 もともと歴史的には、情報ネットワーク上の違法な情報への対応については、インターネットの商用化前後から初期の法制度が構築されており、日本ではプロバイダ責任制限法(2002年施行)と周辺の事業者ガイドラインがその対処を担ってきました。 プロバイダ責任制限法は、違法情報のうち権利侵害情報にのみPFの損害賠償責任を制限しつつ、発信者情報開示制度を運用するものです。たとえば匿名掲示板の管理者は、スレッドに書き込まれた権利侵害情報を放置できない場合と削除できる場合、そして発信者情報を開示できる場合が同法により規定されているので、ガイドラインを参照しながら裁判外でも自主的に削除や開示できる場合があります。 しかし、当初の法整備から約四半世紀を経て、SNS等のPFの利便性が向上するとともに、事業者の民事・刑事の責任を制限することによって自主的対応に多くを期待する第1世代の法制度では対処できない問題が膨れつつあります。そのため現在、EUをはじめ世界各国ではPFの規模に応じた違法・有害情報のリスクを軽減する責務を法定する動きが急になっているところです。