SNSで横行する著名人になりすました「偽広告」、プラットフォームの責任は?
◇プロバイダ責任制限法から情報流通プラットフォーム対処法へ 日本においては、プロバイダ責任制限法が2024年5月の法改正で情報流通プラットフォーム対処法に改称されます(公布日から1年以内に施行)。昨今の社会問題になっているネット上の誹謗中傷やプライバシー侵害に代表される権利侵害について、PFの対応を迅速化するとともに、権利侵害情報とは言えない違法・有害情報の削除状況についても透明化するのが改正法の狙いです。 情報流通プラットフォーム対処法では、これまで事業者の自主的判断で行われてきた投稿についての削除等の対応(=コンテンツモデレーション)に関する規律が法定されました。 具体的には、一定の規模条件を満たすPF(大規模特定電気通信役務提供者)に対し、①権利侵害情報に関する削除申出窓口と⼿続の整備・公表、十分な知識経験を有する者の選任等の削除申出への対応体制の整備と削除申出に対する判断・通知(以上、迅速化規律)、②権利侵害以外の違法・有害情報も対象となる削除基準の策定・公表と運⽤状況の公表ならびに削除した場合の発信者への通知(以上、透明化規律)といったことが新たに義務付けられ、また、義務違反についての罰則規定も新設されました。 なりすまし型「偽広告」による「SNS型投資詐欺」について言えば、第一にPF自身が発信者(または共犯)と認定されれば、刑事責任(詐欺罪)及び民事責任(詐欺の被害者に対する損害賠償責任)が発生します。 第二に、PF自らが作成に関与した広告でなくとも、掲載媒体や広告代理店としての注意義務や削除義務に違反しているとされれば、詐欺の被害者に対する損害賠償責任や、なりすまされた著名人に対する肖像権・パブリシティの権利侵害による損害賠償責任を負うことになります。 これら2点は従来の法制度から変わりませんが、加えて、改正された情報流通プラットフォーム対処法では権利侵害情報の対処に関する迅速化規律が適用されますから、たとえば権利者から肖像権侵害を理由に当該広告の非表示を求められた場合には速やかに対応して判断する義務が生じます。 なお、総務省は広告に関するものも含め、違法情報の該当性についてガイドラインで目安を示すこととしています。なりすましによって肖像、氏名、音声を広告に使われた著名人は、そのガイドラインを参照して削除請求することになるでしょう。 情報流通プラットフォーム対処法の透明化規律は、権利侵害情報に該当しない行政規制的な違法情報(銃の売買情報など)や違法情報にはあたらないが犯罪を誘発しかねない有害情報、たとえば社会的影響が大きい誤情報・偽情報(デマなど)までカバーされます。有害情報には、昨今ではいわゆる「闇バイト」に誘導するグレーな勧誘なども含まれます。「なりすまし型」ではないが詐欺的な広告の多くもまた有害情報に分類されると考えられます。 PFは、透明化規律にもとづき、あらかじめ広告の掲載基準や投稿の禁止基準を自分で策定・公表してこれら権利侵害情報以外の違法・有害情報も禁じていれば、その基準を満たすかどうかを自分で判断して、広告・投稿を削除することになります。 これらは、EUのデジタルサービス法を主にお手本にしつつ、最低限の制度拡張を図ったものといえる一方、権利侵害情報の対応を中心とする法制度から、それ以外の違法・有害情報の対処についても法定した大きな政策転換であるともいえます。