ヴァンクリの高級ジュエリー、なぜ若い世代にも人気? 秘密は「タイムレス」
なぜ売れる?高級時計&ジュエリー 人気ブランドに聞く(4)
仏高級宝飾品ブランド、ヴァン クリーフ&アーペルは今、世界でもっともめざましい成長を遂げているジュエリーブランドといえる。日本でもその人気ぶりはすさまじく、ブティックや百貨店の店頭では、四つ葉のクローバーがモチーフの「アルハンブラ」をはじめ多くのアイテムが常に品薄状態。新作の争奪戦が熱を帯び、セカンドマーケットでも高値で取引されている。何にもまして同社の強みは、皆が欲しがるジュエリーの大半が数十年にわたり販売されてきたロングセラーであることだ。その強靱(きょうじん)なブランド力の源泉はどこにあるのか。ラグジュアリーブランド界屈指の論客といわれる最高経営責任者(CEO)のニコラ・ボスさんに聞いてみた。 【写真はこちら】「アルハンブラ」「ペルレ」コレクションとは? 超絶技巧の時計も美麗
――ボスさんがCEOとしてブランドを率いたこの十数年の間に、ヴァン クリーフ&アーペルは圧倒的な成長力を示しました。何が成功に結びついたのですか。 「私どもは一貫してブランドのDNAを尊重し、先人の手仕事を継承しながらもの作りをしてきました。成功の秘訣はこれに尽きます。我が社の商品は古びることがありません。例えばアイコン的なジュエリーの『アルハンブラ』が誕生したのは1968年です。最新の商品ではなく、息長く愛されてきたアイテムが現実に我がブランドを支えているのです」 「ヴァン クリーフ&アーペルは今、非常に若い世代から高齢の方にまで顧客層が広がっています。これだけ幅広い層から支持される理由は、何よりも品質の高さにあると言っていいでしょう。デザインは四つ葉のクローバー、花、蝶(ちょう)など自然界の普遍的なモチーフを用いて、多くの人が気に入る軽やかさ、かわいらしさを表現しています。こうしたデザインが、優れた職人の手になる伝統技術により、高い品質のジュエリーや時計として具現化されるのです」
■ブランドの遺産 未来へつなぐ
――ボスさんはブランドビジネスに対してどのような哲学を持っていますか。 「私個人の哲学というより、私の役割に対する考えをお話ししましょう。私はメゾン(ヴァン クリーフ&アーペル)が今まで保持してきたヘリテージ(遺産)、そして作品群を、未来へと継承する役割を担う人間だと思っています。DNAをベースとしながら、過去と現在と将来をつなげる作品を手掛けることが私の仕事です。既存の作品やデザインに新たな解釈や技術を加える。あるいは新製品に昔ながらの伝統的な技法を組み合わせて、どのようにブランドを進化させていくのかを常に考えています」 「他のブランドの多くは常に進化と革新を求めています。イノベーションを求めるブランドも数多く存在します。我々のアプローチはこれらとは違い、常に伝統を守り続けながら、新たな素材などとの出会いや異文化との交流をデザインに反映させ、新たな技術も取り入れて、ブランドの成長を図っていくというものです」 ――日本の伝統工芸とも様々な取り組みをしています。 「私は日本文化とのつながりを強く感じています。日本には芸術的な工芸品、機能性と美しさを併せ持つ道具類が存在し、そうした伝統工芸を大切に継承していくという意思を感じます。現在、欧州の社会の各方面で昔のモノを壊し、新たなモノを作り上げる風潮が見られますが、我々のスタンスはこれとは違います」 「ブランド業界では、現在のトレンドを分析し、お客様の好みに寄せたもの作りをするというアプローチが一般的です。あるいは有名俳優などのセレブリティーを起用して商品をアピールする手法も目立ちます。しかし我々はこうした手法はとりません」 ――ヴァン クリーフ&アーペルは「アンバサダーを起用しないジュエリーブランド」としても知られていますね。一方で、大規模な展覧会をしたり、支援する宝飾芸術の学校を日本に紹介したりと、ユニークな活動に取り組んでいます。 「伝統的なもの作りを継承する当社の姿勢、そして我々が手掛ける作品の魅力を、いかにしてお客様に理解してもらうか。そのためのコミュニケーション力を今、磨いているところです。大規模なエキシビションや、芸術教育などの文化的活動は、多くの人に我々のジュエリーの魅力を知ってもらう格好の機会になるのです」