センバツ2023 3回戦 龍谷大平安、最後に意地 もぎ取った1点、客席沸かす /京都
第95回記念選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高野連主催)第9日の28日、龍谷大平安は第4試合の3回戦で、昨夏の覇者・仙台育英(宮城)と対戦した。立ち上がりから失点を重ねて苦しい展開となり、1―6で敗れた。前回出場した2019年のセンバツに続くベスト8進出はならなかったが、最後まで全力を尽くして戦った選手らには、スタンドから大きな拍手と「よくやった」という声援が送られた。【矢倉健次、安徳祐】 西日の傾き始めた午後4時5分、8強最後の座をかけた戦いが始まった。初戦2安打で勝利に貢献した2番打者・稲内熙哉(3年)の父敬時さん(51)は1988、89年夏に平安(当時)の中心打者だったが京都大会の決勝で敗れ、甲子園の土を踏めなかった。「初戦は最初の打席でバントを決め、流れを作ってくれたのがうれしい」と話し、大舞台に立つ息子をスタンドから見守った。 マウンドに立ったのは初戦に続いて168センチのエース・桑江駿成(3年)。母加奈さんは「地元の奈良から龍谷大平安への進学を決めた時、原田英彦監督に『覚悟を持って来てほしい』と言われた。その言葉を胸に、小さな体で頑張って『1番』をもらったのだと思う」と遠くの背中を見つめた。しかし一回から先頭打者に安打を許し、苦しい投球が続く。無死二、三塁を1失点でしのいだが、二回以降も得点圏に走者を背負い、捕手・松浦玄士(3年)と配球に工夫を重ねる。四回にも1点を追加されたが、中盤まで我慢して試合を作った。 打線は初戦無安打と不振だった主将・山口翔梧(3年)が一回に甲子園初安打を放ち、「とにかく1本打ってくれてほっとした」と父道夫さん(51)。明るい兆しかと思われたが、打線は相手投手の変化球にてこずり、二塁を踏めないもどかしい状況が続いた。 七、八回に2点ずつを追加されて劣勢は明らかだったが、「平安魂」は生きていた。八回2死から代打の石丸晟智(3年)が四球で出塁し、ムードを盛り上げる。石丸に「三塁コーチ兼代打」の座を奪われた形となり、スタンドでの応援に回った大竹人暉(3年)は「初戦で石丸が代打で安打した時は正直、複雑だった。でも自分の現在地に気づき、応援せねばと思い直した」と声を張り上げた。 九回には山口が本塁打を放ち、一矢を報いた。最後まで意地を見せ、アルプススタンドは大きな歓声に包まれたが、反撃はここまで。昨秋の府大会準決勝でのコールド負けからはい上がった龍谷大平安の戦いは、16強で終幕を迎えた。 ……………………………………………………………………………………………………… ■熱球 ◇全力の一打、味方鼓舞 白石力翔(りきと)選手(3年) 「相手の湯田統真がいい投手であることはわかっていた。直球に狙いを絞ったが、切れ味鋭いスライダーに幻惑された」。先頭打者として9球粘ってフルカウントに持ち込みながら、遊ゴロに打ち取られ出塁できなかった一回の打席を悔いた。 結果的にこれが、後手に回る一因にもなった。六回は1死から内野安打で出塁。自慢の足で盗塁などを仕掛けたかったが、後続の打者とタイミングがかみ合わず、進塁できなかった。 打線が凡打を重ね、じりじりとリードを広げられる重苦しい展開。だが、八回に実力の一端を見せた。 2番手の左投手に対し、1桁背番号で最も小柄な165センチの体で思い切り踏み込み、鋭い打球の右前打。代打で四球をもぎとった前打者・石丸晟智の気持ちをつなぎ、反撃ムードを盛り上げた。 「夏までには、打線が桑江駿成を楽にしたい。その先導役になる」。思いを強くした敗戦だった。 〔京都版〕