『伊藤潤二展 誘惑』世田谷文学館で開幕。『富江』『うずまき』描き下ろしも展示する初大規模展をレポ
怪しく麗しい伊藤作品の登場人物たちにスポット
第1章のテーマは「美醜」。キャプションでは「伊藤の描く美男美女はこの世のものとは思えない妖艶さをまとう。時に、花から花へ飛ぶ蝶のように移り気で、悪びれることなく周囲の人間を狂わせ、内面の醜さが表に吹き出した途端に恐ろしい異形へと姿を変える」と紹介し、伊藤作品の麗しくも怪しい登場人物にスポットを当てる。デビュー作でもある『富江』の漫画原稿や扉絵が中心に展示されていた。 フィギュア原型師の藤本圭紀による富江の新作フィギュアも存在感を放っていた。 2章は「日常に潜む恐怖」。伊藤作品の描写の特徴を「徹底的に追求されたリアリティーと自身の経験に裏打ちされた描写」と評し、ごくありふれた日常がホラーの入り口になっていることに言及。ここでは『うずまき』や『ギョ』シリーズ、『双一の勝手な呪い』などから、原稿をはじめ下絵も並ぶ。 この章では『うずまき』の新作イラストも展示。伊藤は「漫画では、主人公の桐絵という少女が地下へ行き、巨大な遺跡を発見するところで終わっちゃうんですけど、その後どうなったかっていうようなテーマで描きました」と説明した。
透明感のある色彩を感じる扉絵、そして伊藤本人にフォーカスした章も
3章は「怪画」として、物語を象徴する扉絵を中心に展開。水彩で描かれたもののほか、近年の伊藤作品では油彩画も多く登場するという。恐ろしさやグロテスクさに目が向きがちだが、ここでは伊藤の透明感のある色遣いや流麗な筆致に気づくことができた。 4章のテーマは「伊藤潤二」だ。「3歳でTVアニメ『悪魔くん』に出会い、登場する怪物に心惹かれた少年は、画用紙を綴じて漫画本を作り、コツコツと絵を描きためるのが趣味だった」という説明とともに、伊藤が書いたとSF小説や幼少期の絵画など、伊藤の創作の根源に迫る。 『伊藤潤二の猫日記 よん&むー』にスポットが当てられ、猫のイラストだらけの一角も。それまでの雰囲気とは一変、コミカルな雰囲気が漂っていた。 すべて見終えると、3枚目の描き下ろしが現れる。伊藤は、「これは『富江』と短編『道のない街』を合体させたようなイラストです」と話していた。 また、会期の開始時には間に合わなかった展示物もあるそうで、「いま、独自の仕組みの関節のポーズ人形をつくっているのですが、それを展示する予定です。(ポーズ人形づくりは)いま漫画より熱中していることですね」と笑っていた。
テキスト・撮影 by 今川彩香