「カタカナが思い出せない…」61歳敏腕記者を襲った認知症、“ボケの恐怖”と“体当たりの早期治療”
劇的にミスが減って、進行もストップ
現役時代に忙しかった人ほど、仕事を辞めた後もそれまでと同じような生活を送るのが大事、と山本さん。 「会社を辞めた後に陥りやすいのが、家に閉じこもってポカンとテレビを見て過ごすこと。そうならないために、日常にいくつか習慣をつくることが大切だと思います。僕の場合は、デイケアのほかに、自宅でも本山式筋トレを行い、絵を描いたり音楽を演奏する。 スポーツクラブでヨガやピラティスのレッスンを受ける、それにときどき仕事も入ってくる。そうすると1週間ほとんど埋まってしまうんです。友達もできて、話もできて、気分も変わって、症状を止める効果が出るんじゃないかと思います」 知り合いの中には、デイケアに通ったけれど数回でやめてしまった人もいるそう。 「そのうちの数人は、その後、症状が進んで施設に入ったそうです。長年通い続けていたら、僕みたいに良くなっていたかもしれないので残念ですね」 デイケアでのトレーニングも今年で10年。途中、朝田先生の都内のクリニックに場所を移して、現在も週に1~2回のペースで通っている。個人差はあるけれどと、断ったうえで、山本さんご自身は開始から3か月ほどで効果を感じたという。 「頭の中に靄がかかっているような状態が前はよくあったんですが、そういうのがなくなって、何もしないでボーッとしている時間もなくなりましたね」 新しいことをやりたいという意欲も湧くようになったそうだ。 「ヨガをやるにしても、以前なら女性ばかりの中に入るなんて絶対できなかったけど、リハビリになるかもって思ったら参加できるようになりました。新しいことに興味や好奇心を持つことも認知症予防に大切だと思いますね」 また、10年前からタブレットのカレンダーに、「カギを忘れた」「電気を消し忘れた」といった“今日のミス”を書き留めているという。 「最初のころは1か月で最高64回、1日最低2回はミスをしていたのが、2~3年後には月に15回、いまでは多くても月に5回程度にまで減ったんです。ミスが完全になくなることはないけれど、ミスしてもすぐに気づくようになったし、ミスしても落ち込まないようになりました」 2020年には、症状が止まったと主治医からもお墨付きをもらったという。72歳になる現在も、フリーの記者として週刊誌や月刊誌、会報誌などの仕事を精力的に続けている。 「いまは良くなっているけど年を重ねていって、また認知症になる確率はほかの人より高いかもしれない。そう思ってトレーニングを続けています。がんみたいに病巣を取り除いたらよくなる病気じゃないからこそ、早く発見できてよかったです。 MCIにいちばん早く気づけるのはほかでもなく自分だと思うので、おかしいなと思ったら早めに受診することが大事だと伝えたいです」 山本朋史(やまもと・ともふみ)●1952年生まれ。毎日新聞社を経て、'83年に朝日新聞社に入社。'86年からは『週刊朝日』編集部へ。リクルート事件、KSD事件、オウム事件などを取材。副編集長を経て、編集委員に。現在もフリーの記者として活動中。 取材・文/荒木睦美