「イタリア」を「伊太利亜」と 漢字で表記したくなる欲望から なぜ私たちは逃れられないのか
●CREA Traveller編集部だより Vol.002乙女 パスタに感動|タンポポ
ひたすら地中海の陽光に恋焦がれて…… こんにちは。イタリアの種馬こと、CREA Travellerスーパーバイザーのヤングです。 【画像】麻布台にあるカフェテラス「伊太利亜亭」。話題の新スポット、麻布台ヒルズからもほど近い。 CREA Travellerの最新号「イタリア 理想の休日」が発売されてしばらく経つ。カプリ島やアマルフィ海岸、ナポリを始め、南イタリアの必見デスティネーションを紹介したこの特集は、おかげさまで好評を博している模様である。ありがとうございます。 だが、筆者自身はといえば、イタリア取材には派遣されなかったので、指をくわえ誌面をためつすがめつしながらふと向かいのデスクに目をやると、すみっコぐらしのキャラクターみたいな年若い女性編集長が、彫刻刀を器用に操り、ナスやキュウリを写実的な馬や牛の形にカービングしている。高校では美術部に所属していたと噂される昔取った杵柄で、お盆を迎える準備をしていたようだった。 細かい毛並みまで見事に再現されており、あまりにもリアルで本物にしか思えない。高村光雲の《老猿》すら彷彿とさせる。ひょっとして、仏師の家系か何かに生まれたのだろうか。今にもこちらに駆け出してきそうな牛馬の姿に目を丸くしていると、そのナスとキュウリにブスブスッと割り箸の脚を刺し終えたすみっコぐらしが、こちらの視線に気づいたらしく、おもむろに口を開く。 「暇持て余してんならまた一人でイタリア行ってこい」(大意)。前回の当コラムにおいて、「南伊に行く」と言い張って南伊豆を旅した俺は、再び、書を捨てて町へ出た。 尋常ならざる酷暑の中を朦朧としつつさまよい歩き、行き交う車の姿が陽炎となってゆらめく新宿通りの向こうに15年前にマイケル・ジャクソンと同じ日に死んだはずの祖母の幻を見て「ばあちゃん!」と呼びかけたりしながら、徒歩じゃ永遠にイタリア着かねえよなあ、やっぱり無理だよなあと弱気に蝕まれつつ街をいろいろ観察していると、ある現象に気づく。 日本人は、やたらとイタリアを漢字表記したがるのだ。