「イタリア」を「伊太利亜」と 漢字で表記したくなる欲望から なぜ私たちは逃れられないのか
街角には「伊太利亜」がいっぱい!
まず、一番多いパターンが「伊太利亜」である。これが、我が国における標準的な漢字表記になるであろう。何でも、漢字の本場・中国では、「意大利」と書くそうだ なお、「伊太利亜市場BAR」は、“バー”ではなく“バール”と読むとの由。それでこそイタリアンである。 それで思い出した。弊社の近くには「東京酒BAL」を標榜する居酒屋チェーンがあるのだけれど、BALとは一体何なのか。恐らく、“バル”と読ませたいのだろうが、でも、スペイン語の “バル”の綴りはBARである。 しかしまあ、原語のままBARと表記すると、英語の“バー”だと解釈されてしまい、スペインバルの雰囲気を狙ったスペシャルな意図が伝わらない。ええい、いっそのことBALと書いときゃ間違いなく“バル”と読んでくれるはず! という思惑が先走って、この不思議な店名にたどり着いたのだと察する。 片仮名で“バル”と表記すれば済む話だが、ここはどうしても意地でも横文字を使いたかったのだろう。ただ、それなりの規模のチェーン店を命名するのだから、さすがに辞書引かなかったなんてことはあるまい。ないと信じたい……。 その他、有名なところでは、「伊太利屋」というブランドが挙げられよう。その名の通り、イタリアの伝統と情熱を採り入れた日本発のメゾンである。テーマは「野生のエレガンス」。アニマル柄を我が国のファッションに導入した、画期的なブランドだ。 俺もいい年になったのだから、1年365日「海人(うみんちゅ)」のTシャツばかり着るのはそろそろやめにして、伊太利屋のこのワイルドな着こなしに学びたいと思っている(そういう経緯から、俺の社内における愛称は「うみんちゅ」である)。 他には、「伊太利庵」「伊多利庵」という飲食店も、さまざまな業態で全国に散在している。 しかし、他の片仮名国名を漢字表記した店名はあまり目にしないのに、なぜ伊太利亜は多いのかといえば、当て字をただ素直に読めばこれは「イタリア」だなと見当がつく明解さが理由だろう。その点、英吉利(イギリス)とか仏蘭西(フランス)とかは、ちょっとハイブロウで、読みあぐねる向きも少なくないのだと思う。 そこで、いつも考えるのは、西班牙(スペイン)という漢字表記のもたらす混乱である。地名の頭には方角を表す文字を使わない方がいいと思うのだ。例えば、南フランスを「南仏」と呼ぶ省略法を西スペインに用いると、「西西」となってしまうから。