ジャンプ作品なのに表紙が“花一輪”。担当が「編集部に衝撃が走った」と語る、マンガ『夏の終点』作者の素顔は?
「少年ジャンプ+」で昨年11月から連載開始し、全16話(単行本上下巻)で完結したマンガ『夏の終点』。いわゆる“ジャンプ”らしくない静謐な画風と繊細なストーリーで読者の心を掴んだ。 【画像】いわゆる“ジャンプ”らしくない『夏の終点』の静謐な画風 作者の西尾拓也さんは現在22歳。担当編集者同席のもと、創作の原点を聞いた。 〈あらすじ〉 美化委員の夏川さんは、気づけば同級生の相原くんのことを目で追っている。そんなある日、休みの日に相原くんが女の人と歩いているところを目撃して……。
画風が違えど「ジャンプ」を目指すのは当然だった
――最初に本作を読んだとき、非常に静謐なタッチでありつつ情感あふれる物語世界に引きこまれました。同時にこうした作品が「少年ジャンプ+」で連載されていることにも驚いたのですが……。デビューも「少年ジャンプ+」ですよね。 西尾 はい。19歳のとき、「少年ジャンプ+」新人賞の「アナログ部門賞」で入選した『少女と毒蜘蛛』がデビュー作です。 ――小さい頃からマンガ家を目指していたのでしょうか。 西尾 小学生の頃はジャンプっ子でしたね。物心ついたときからマンガを描いていたと思います。 ――どんな感じのマンガを? 西尾 『トリコ』(島袋光年)とかを真似たようなマンガですね。中学生、高校生になるとマンガ家の夢はいつのまにか薄れていて。読むのは好きでしたが、それほど熱心ではなくなっていました。ただ、絵を描くことは好きで。親が美大を勧めてくれて、予備校で絵の勉強をしていました。 ――再びマンガを描くに至ったきっかけは? 西尾 浪人して美大受験の準備をするはずが、コロナ禍で予備校に行けなくなっちゃったんです。ずっと家にいて何をしたらいいのかなと思っていたとき、そういえば昔マンガ家になりたかったなと思い出して。 ――この作風はどのように確立されたのでしょうか。 西尾 マンガ家で一番大きい影響を受けているのは池辺葵先生です。初めて『繕い裁つ人』の第1話を読んだとき、「マンガってこんなにすごいんだ」とびっくりしたんです。話の奥深くまで100%理解できたわけでもないと思うけど、それでもこんなに心に残るのがすごいなと思いました。 ――池辺葵先生の影響とは、納得です! 最初に『夏の終点』を読んだときは林静一先生の影響があるのかなと思ったのですが。 西尾 絵柄の面でいえば、林静一先生の影響もあるかもしれません。冨樫義博先生の絵も大好きですね。特に、『幽☆遊☆白書』の最後の方とか……。 ――それにしても、このあまりにも端正な作品を「少年ジャンプ+」に投稿するのに迷いはなかったんですか? 西尾 若かったから……いや、今も若いんですけど(笑)。そのときは「ジャンプ」って一番注目度が高い雑誌だから、そこを目指すのは当然だと思っていたので。おもしろければなんでもいいんじゃないかと。 ――「少年ジャンプ+」は本誌に比べるとかなり幅が広いですが、その中でも西尾作品はかなり異色なのでは。デビュー後、苦労したことはありましたか? 西尾 いくつか読み切りが「少年ジャンプ+」に掲載されて読者の感想をもらってみたら、思ったより伝わらなかったことがあって。 ――ご自身の意図とは違って受け止められるとか? あるいは「意味がわからない」とか? 西尾 別の解釈をされるのは全然かまわないんです。ただ「意味がわからない」と言われてしまうのは困ったなぁと。もっとわかりやすく描いた方がいいのかと考えたりもしましたね。でも、結局、わかりやすくはしてないんですけど……。 でも、最終的には「よくわからなくても心に残る」とか、「読んでいるときの感覚に浸っていたい心地よさ」を大事にしたいです。マンガに限らず創作物では、「受け手に想像させる」っていうのが一番豊かなんじゃないかなと思って。