投資のプロが教える「増配」が期待できる企業の見極め方
「PBR」が1倍割れ企業の株主還元に期待
増配する企業の見極め方として、私が注目しているのは、「PBRが1倍割れしている企業」の動向をチェックすることです。PBRとは、「株価純資産倍率」と呼ばれるもので、「PBR=株価÷1株当たり純資産(BPS)」の計算式によって求められます。 PBRは、株価が「1株当たり純資産」の何倍の水準にあるかを示したもので、現在の株価が、企業の資産価値に対して「割高」か「割安」かを判断する目安とされており、その数値が低いほうが割安と判断されます。 従来は「PBR=1倍(株価と資産価値が同じ)」が株価の底値と考えられてきましたが、PBRが1倍を下回っている企業は東京証券取引所(東証)に上場している3300社中の約1800社もあることから、東証は2023年3月、上場企業に対して異例ともいえる改善要請を行い、日本政府も早期是正に向けてそれを後押ししているのが現状です。 PBRが1倍割れしている企業は、「稼いだお金をうまく活用できずにお金が貯まっている状態にある」と見ることができます。従来、それが問題視されることはなかったため、多くの大型企業が1倍割れの状態にありましたが、東証の改善要請を契機に危機感が広がり、各企業が改善に向けて積極的に動き出しています。 今後はさらに改善に向けた取り組みが加速すると予想されるため、PBR改善の動きをチェックして、増配を先読みしながら投資を検討することが配当金投資では大切になります。 改善策の2本柱となるのは、事業拡大のための「成長投資」と「株主還元」ですが、超成熟企業であれば、業績にインパクトを与えるほどのイノベーション(技術革新・新基軸)はそう簡単に起こらないため、中心となるのは後者の株主還元になることが予想されます。 株主還元の方法には、「自社株買い」と「配当」の2つがあります。自社株買いとは、上場企業が過去に発行した株を自らの資金を使って買い戻すことです。企業が自社株買いを実施すると、純利益に対する発行済株式総数(自己株式を除く)が減少するため、1株益の上昇につながります。 自己株式とは、企業が保有する自社株のことです。大まかな流れとしては、「企業が自社株買いをする」「1株益が上がる」「PER(株価収益率)が下がる」「割安感が生まれる」「株が買われる」「株価が上がる」というプロセスを経て、PBRが1倍を超えることになります。1株益が上がれば、企業は配当の原資を増やせるため、配当性向の基準を定めている企業であれば、増配が可能になります。これが自社株買いの効果です。 企業が増配を選択するのは、貯まっているお金を有効に活用できていない状態のため、株主に還元することで資本の効率化を図ることを目的としています。したがって、「PBRが1倍割れしている企業は、株主還元に積極的になりやすい」と予測することができます。 企業が自社株買いと増配のどちらを選択しても、私たち投資家にとってはメリットが生まれる可能性が高くなります。新NISAを活用して配当金投資を始める個人投資家が増えていってほしいという意味では、今後も株主還元に積極的な企業が増えることを大いに期待したいところです。
配当太郎(投資家)