待ってろ大谷翔平&山本由伸! 米ロサンゼルスドジャース、超ディープ現地観戦レポ
■現地民が抱くドジャースへの愛憎 さて、ここから再びドジャース観戦紀行に戻る。 初日(3月27日)の夜、ロス到着直後に知り合ったイヴァンから連絡があった。 「明日は一緒に朝食を取って、それから試合を見に行こう。ホテルまで車で迎えに行くよ」 うれしい申し出だ。そんなわけで翌28日、イヴァンの運転するトヨタ車で出発した。途中、リッチーとガールフレンドのアナさんを拾う。 イヴァンは非常に物知りで、運転しながら通過する場所のひとつひとつについて説明してくれる。仕事を訊ねるとハイスクールの歴史教師なのだという。ロスについては、禁酒法時代の地下通路がどうなっていたかまで調べたそうだ。「そりゃあ、ロスを愛してるからね」と真顔で胸を張る。 彼ら行きつけのメキシコ料理屋に一歩踏み入ると、ドジャースのユニフォームを着た先客がずらり。大半がチカーノで、朝からサングリアを飲んでいる人もいる。 そこでたらふくごちそうになってしまった。払うと言っても聞かないのだ。特にポソレというメキシコのスープが最高にうまかった。 「皆さん、いつも朝食をこんなに取るのですか?」 「ホーム・オープナー(本拠地開幕戦)のときだけさ。毎年開幕戦はイースター(キリストの復活を祝うお祭り)付近にやるから休みが取りやすくてね。試合の前にたっぷり食べていくんだよ」 ファンにとって本当に特別な日で、もう祝祭は始まっているのだ。 スタジアムに向かう車中でふと頭に浮かんだことがあった。ロス出身のミュージシャン、ライ・クーダーのアルバム『チャヴェス・ラヴィーン』は、ドジャース球団の誘致がもたらした混乱など、地域の史実をテーマにした音楽絵巻だ。チャヴェス・ラヴィーン(山峡)とはドジャースタジアムがある丘の呼称である。 「チャヴェス山峡の話を聞かせてくれませんか?」 ハンドルを握るイヴァンは反射的に眉をひそめた。 「あれは悲しい歴史だよ。あの辺りにはチカーノや中国系の人たちが多く暮らしていたんだが、ドジャースが球場を建てることになって、老いも若きも子供も妊婦も、有無を言わさず追い出されたんだ。家を潰されてね。 わが国にはエミネント・ドメイン(公共のための強制徴用)というものがあり、こういうことが起きてしまう。この過去があるから、今でもドジャースを嫌っている年配の人は多いよ」 だが、その下の世代の彼らはドジャースを応援している。 イヴァンは言う。 「ほかの球場も何個か見てきたが、私はドジャースタジアムが一番美しいと思うよ」 ただ、ドジャースタジアムには超広大な有料駐車場があるが、イヴァンたちはなるべくそこを使わないようにしているという。 「ドジャースを売った男」とファンが敵視する元球団オーナー、フランク・マッコート氏が所有しているからだ。 選手たち、球団、そしてベースボールには惜しみない愛を注ぎながらも、それを取り巻く権力・金力に対しては市民的な警戒を怠らない。ドジャースは、そしておそらくMLB全体も、そうしたファンに支えられているのだ。