3歳児への聴取、「必要性を明らかに」と裁判長が東京都に求める。「警察官から人種差別」と訴えた母子の裁判、二審始まる
警視庁の警察官に、同意なしに氏名や住所の個人情報をトラブルの相手に提供され、帰宅の意思を示したが警察署内で長時間にわたって事情聴取されるなど違法な対応を受けたとして、南アジア出身の40代女性と長女が東京都に損害賠償を求めた訴訟の控訴審の第1回口頭弁論が11月14日、東京高裁(後藤健裁判長)であった。 この日、原告女性が意見陳述し、控訴審に対する思いや現在の長女の様子を明かした。 女性は、2021年6月に当時3歳の長女が警察署で事情聴取を受けた後から、現在も治療が続いていると話し、「子どもは恐怖に取りつかれている」と訴えた。長女は医療機関で心的外傷の体験による不眠との診断を受けている。 女性は涙で言葉を詰まらせながら、高裁の裁判官たちに対し「私たちには保護と公正さが必要です。私たちには、日本で威厳を持って平和で安全な生活を送る権利はないのでしょうか?」と問いかけ、こう続けた。 「日本で、私たち全ての外国人が、安心して生活できるようにしていただきたいのです」 一方、被告の東京都は答弁書を陳述し、「原判決の判断は正当」だとして、控訴棄却を求めた。
どんな裁判なのか
訴状などによると、2021年6月、都内の公園にいた南アジア出身の女性と当時3歳の長女が、見知らぬ男性から「子どもが(長女に)蹴られた」などと抗議を受けトラブルになった。男性は女性に対し、「外人」「在留カード出せ」などと詰め寄った。 女性側は、警察官たちが男性の差別発言を制止しなかったと主張。また、公園を通りかかり、英語通訳をした目撃者の男性は、2023年12月の証人尋問で「警察官が女性の娘さんに対し、『どうせお前が蹴ったんだろう』『本当に日本語しゃべれないのか』などと言っていた」と証言した。 原告女性と長女はその後警察署への同行を求められ、公園と警察署内での事情聴取は計約4時間半に及んだ。原告側はこの間、帰宅することや、長女のおむつ替えも認められなかったと主張。さらに、長女ひとりに対して複数の警察官が事情聴取をしたことや、同意していないのに女性の氏名や住所、電話番号といった個人情報を、トラブル相手の男性に警察官が提供したと訴えていた。 原告側は、警察官たちによる一連の行為が人種差別を支持・助長するものであり、「異常なまでの圧迫的な扱いはレイシャル・プロファイリング(※)に当たる」と指摘。「公権力の行使に際して人種差別を行ってはならないという職務上の注意義務に違反し、違法だ」として、損害賠償を求めていた。 (※)レイシャル・プロファイリング・・・警察などの法執行機関が、「人種」や肌の色、民族、国籍、言語、宗教といった特定の属性であることを根拠に、個人を捜査の対象としたり、犯罪に関わったかどうかを判断したりすること