じつは「ビッグバンによって宇宙ができた説」は問題だらけ…残されたナゾと通説に挑む新理論を一挙紹介!
インフレーションはなぜ必要か
そのように、インフレーション前には温度が等しく絶対温度3度になるような条件をそろえた因果関係のある小さな領域が、インフレーションにより一気に地平線の外まで広がったと解釈するのです。その場合、インフレーション前にはそれぞれ近い領域でしたので、上記の因果関係を破るわけではありません。つまり、今まさに光が届こうとしている地平線とその反対側の地平線は、昔は同じ小さな領域の中だったと解釈されるのです。これで地平線問題は解決されます。 また、風船の例をもう一度思い出すと、そうした急膨張は丸まっている風船を一瞬で大きくして、その丸まり具合を伸ばして平らにするほどだったと考えられます。このようにして平坦性問題も解決されます。その一方、インフラトン場は素粒子なので、量子力学の不確定性原理に由来する「量子ゆらぎ」をもち得ます。大きな量子ゆらぎは、激しい膨張の最中に真空から生成されると考えられています。その量子ゆらぎが急激な膨張を受けて地平線の外まで引き伸ばされると、時間とともにゆらいでいたインフラトン場の量子ゆらぎは、地平線の外では、あたかも振動していないように見えるほど長い波長に伸ばされます。そのとき、時間とともに、ゆらぐという量子的な性質を失っていきます。 そうすると、元の振動の波長が凍りついたそのパターンは、場所ごとにゆらぐ、古典的な密度(曲率)ゆらぎとなります。インフレーションが終わり、インフラトン場が光子などに崩壊して火の玉宇宙(ビッグバン宇宙)をつくるわけですが、そのとき、火の玉の温度はその密度(曲率)ゆらぎに沿うようにゆらぎをもってつくられます。そして、その温度ゆらぎは、宇宙マイクロ波背景放射のゆらぎとして、今日、WMAP衛星やプランク衛星に観測されるのです。 加えて、インフレーション後に実現される、そうした火の玉の温度は、必ずしも大統一理論のエネルギースケール(1京度の10兆倍)に戻る必要はありません。この温度を再加熱温度と言います。インフレーションの前にも火の玉があったかもしれないので、再加熱と呼ばれます。インフラトン場の寿命が十分に長いなら、火の玉の再加熱温度は、大統一理論のエネルギースケールよりずっと低い温度になる可能性があります。その場合、モノポールをつくるだけのエネルギーが足りなくて、モノポールはつくられず、モノポール問題は解決されます。また、グラビティーノ問題についても、火の玉の温度が10万GeV以下、つまり100京度以下というさらに低い再加熱温度が実現されているならば、グラビティーノの量が十分につくられず、崩壊しても有意な量のヘリウムを壊さずにすむせいで、観測データに抵触しないのです。このように、低い再加熱温度の実現により、グラビティーノ問題が解決されるに違いないと理解されています。 * * * さらに「宇宙と物質の起源」シリーズの連載記事では、最新研究にもとづくスリリングな宇宙論をお届けする。
高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所