【魯肉飯&大腸麺線】要町の小さな名店「有夏茶房」の本格台湾料理は、現代生活におけるポーションだ:パリッコ『今週のハマりメシ』第154回
ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。 【写真】ラーメン、うどん、そば、どれともまったく違う大腸麺線(だいちょうめんせん) それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。 そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。 * * * 用事があって池袋へ出かけ、その用事が終わって時刻はお昼のちょっと前。せっかくだから昼ごはんでも食べて帰りたい。 そこでなんとなく西口方面に出て、駅前繁華街をうろついてみる。当然店はいくらでもあるものの、そもそも自分が"なんの気分"かがはっきりしていないから、なんだか決められない。時間ばかり過ぎてゆき、なぜか焦りはじめる。よくあることだ。 むやみやたらと歩いていたら、もはや有楽町線でひと駅隣の、要町駅のほうが近いくらいの場所まで来てしまった。もう、行ってみるか、要町。 池袋から要町へは、大通りである都道441号を直進すること10数分で着く。その間、いったん飲食店の数が少なくなるエリアのあたりで、やっと我に帰った。そもそも、なにをあわてることがあるんだと。気ままに街を散策し、流れに身をまかせて出会った店にふらりと入ってみることこそ、僕のもっとも好きな行為じゃないかと。それが見つからないなら、別に無理に店に入らなくたっていい。 そんなことを思った時に目の前にあったのが、可愛らしい外観の「有夏茶房」という店だった。茶房というくらいだからカフェ系かな? と思い近寄ってみると、「滷肉飯(ルーローハン)」や「大腸麺線(ダイチョウメンセン)」などなど、興味深いメニューが並んでいて、どうやら台湾料理店のようだ。 なんてことをしていたら、店から優しそうな顔をしたご主人が出てきた。僕に気がついてわざわざ、ということではなくて、店頭の睡蓮鉢で飼っている金魚に餌をあげにきたようだ。僕に気づくとにっこりと「こんにちは」と挨拶をしてくれたので、僕も「こんにちは」と返す。それ以上の、たとえば「お席空いてますよ」とか「美味しいですよ。よかったらいかがですか?」みたいな会話はなし。とてもいい。そうか、僕は今日、この店に導かれてここまでやってきたというわけだったのか。 「ひとり、入れますか?」と聞いて、そのまま入店。 小さなテーブルが4席、椅子は全部で8つの、こぢんまりとした店内だ。蔦の這う大きな窓から光が入って気持ちがいい。メニューを見てみると、やっぱりどれも魅力的。王道のルーローハンはもちろん、「軟骨飯(ナンコツハン)」「滷大腸飯(ホルモンハン)」「猪脚飯(ジュージャオハン)」、どれも気になる。しかもランチセットには、野菜炒め、味付け卵、揚げ豆腐、デザートがつくらしい。 が、「滷肉飯セット」(税込1,210円)には唯一「大腸麺線(ミニ)」もつくと書いてあり、どちらも食べてみたかったので、初回の今日はこれを選んでみるのが良さそうか。 また、「酒菜(おつまみ)」のメニューが思いのほか充実しているのも個人的に嬉しく、夜に飲みに来るのも楽しそうな店だ。「おつまみを注文されたお客様は、お酒類が110円割引になります」の一文にも泣ける。念のためご主人に、お酒はランチタイムでも頼めるかどうか聞いてみると「もちろんです!」とのことで、流れで「台湾紹興酒(杯)」(550円)も頼んでしまう。 ほどなくして、料理と酒が到着。
【関連記事】
- 【サッポロ一番"昆布水冷やし"塩らーめん】2024年の夏をともに過ごした「昆布水」の記憶を、この一杯にとどめておきたくて......:パリッコ『今週のハマりメシ』第153回
- 【モツあんかけラーメン】大塚のニューウェーブ町中華の名物ラーメンが、ぐぅのねも出ないほどにうまかった話:パリッコ『今週のハマりメシ』第152回
- 【チキンカツ玉子とじ】思いがけず本気の食事になってしまった、老舗酒場の絶品チキンカツ玉子とじ:パリッコ『今週のハマりメシ』第151回
- 【ビフテキ丼】赤坂の老舗「津つ井」名物のビフテキ丼と有頭海老フライのセットで、新しい世界の扉が開く:パリッコ『今週のハマりメシ』第150回
- 【塩ワンタン麺】まるで天女の羽衣!? 三鷹で食べられる山形・酒田ラーメンのワンタンは、究極のふわとろ食感だった:パリッコ『今週のハマりメシ』第149回