【魯肉飯&大腸麺線】要町の小さな名店「有夏茶房」の本格台湾料理は、現代生活におけるポーションだ:パリッコ『今週のハマりメシ』第154回
まずはダイチョウメンセンからいってみよう。スープをズズズとすすると、しっかりとしたとろみが舌に心地いい。味わいは優しくて、しかし動物系の旨味が強めにある。最初は、とんこつ? と思ったけど、そうか、これがホルモンの風味か。くさみなど皆無で、ふわりと柔らかい麺と合わさって、とにかく癒される。さっきまで焦っていた自分が遠い昔のようだ。 野菜炒めがこれまた穏やかな味わいで、けれども物足りなくないところはさっきのメンセンと共通している。揚げ豆腐はしっかり味。中華系のスパイスの香りと酸味がほのかにあってうまい。サービスで「麻辣グリーンピース」をつけてもらった紹興酒をこくりと飲むと、少し歩き疲れ、また悩み疲れた心身が、開放された感覚が確かにあった。 そしてルーローハン。さっきからおんなじ感想ばっかりだけど、見た目よりもずっと優しくて穏やかな味だ。そうか、本格的かつ腕の確かな料理人が作る台湾料理って、優しくて穏やかな料理なのか。ひと口ごとに癒され、体調が回復してゆく、毎日でも食べたい。 ほろりと煮られた豚肉は、甘めの醤油ベースに八角が香り、ごはんとよく合う。添えられたパクチーや高菜、煮玉子を崩しながら少しずつ味変してゆくのが楽しく、食べれば食べるほどにうまくなる。野菜炒めをのせてもうまい。 また、ザラザラっとしていなくて、むしろねっとりとした自家製ラー油。これをかけると味が一変、麻辣の「辣」、つまり唐辛子に特化した爽やかな辛さと、焙煎っぽい香ばしさが加わり、よけいにれんげを口に運ぶ手が止まらなくなる。 きっと料理名があるんだろうけど僕にはわからないデザートは、ナタデココと餅と寒天の中間のような、透明でぷるんとしたなにかがたっぷり入った、日本で言う寒天のようなものか。蜜っぽい甘さと、マンゴーっぽい酸味と香りのバランスが良く、妙にうまいお茶とよく合って、素晴らしいシメだ。 何度も前を通ったことはあったのに知らなかったのが恥ずかしいが、お会計時に聞けば、店は開店からもう10数年になるらしい。 ご主人は台湾のご出身らしく、「美味しかったです」とお伝えすると、調理場にいた奥様までわざわざ顔を出してくれ、ふたりで「嬉しいです! ありがとうございます!」と何度もお礼を言ってくださった。なんて良い気の充満した名店なんだ......。 要町の有夏茶房、今日、心身に刻み込んだ。日々の暮らしに疲れたらまた癒されに行こう。 取材・文・撮影/パリッコ
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