スポーツを腐敗させる「賭博」の罠(わな)―デジタル社会に広がる依存症の危険
データが細分化、賭けはスマホでも
NBAの例からも分かるように、スポーツ賭博といっても、勝敗だけに賭けるわけではない。個人のパフォーマンスが賭けの対象となれば、選手にかかる重圧は計り知れない。 世界のスポーツ界では「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が積極的に推進されている。高性能カメラや人工知能(AI)を使った測定機器が発達し、細分化された競技結果がリアルタイムに分かるようになってきた。野球やバスケットなどの団体競技でも、個人成績や記録によるタイトル争いは観戦の醍醐味であり、デジタル技術は「見る側」の楽しみをさらに増幅させるに違いない。 技術革新はスポーツ賭博にも大きな影響を与えそうだ。観戦者はスマートフォンなどの端末でサイトにアクセスし、テレビゲームを楽しむかのように、クリック一つで賭けを行うことができる。カジノまで足を運ぶ必要もない。手持ちの現金を賭け屋に支払うわけでもなく、銀行口座やクレジットカードを登録して行うのだから、歯止めも利きにくい。負けを取り返そうと賭けを繰り返し、結果的に投じる金額が膨らんでいく。違法なブックメーカーでは、「信用取引」で所持している以上の金額を賭けさせることもあるという。
米国では2018年以降、合法化する州が拡大
米国では1992年制定の連邦法「プロ・アマスポーツ保護法(PASPA)」により、ラスベガスのあるネバダ州など一部を除き、スポーツ賭博は禁じられてきた。 しかし、税収アップなどのメリットもあることから、スポーツ賭博の合法化を求める地域も増えている。ニュージャージー州は住民投票で合法化を決定し、2012年に州法を成立させた。これに対し、全米大学体育協会(NCAA)やプロスポーツ団体が「PASPA違反だ」として提訴。最終的な判断が18年の連邦最高裁判所の判決に委ねられた。 最高裁は州の自治権を尊重し、連邦政府がスポーツ賭博に関して州を規制するのは「違憲」との判断を下した。これにより、州がそれぞれの判断で合法と認めることが可能になった。こうしてスポーツ賭博が事実上解禁され、今のところ、全米50州のうち38州で合法化されている。 スポーツ界も放映権料の販売やデータ提供から収入を得られるとして、スポーツ賭博に理解を示す動きが広がりつつある。MLBも23年にブックメーカー大手の「ファンデュエル」と公式スポンサー契約を結んでおり、賭博と距離を置くというよりは、パートナーという関係だ。 一方、ドジャースの地元カリフォルニア州を含め、12州ではまだ禁止されているが、水面下では違法業者が幅を利かせている。ESPNによれば、水原氏の賭博関与は、違法業者の捜査から浮上したとされる。