「ちきゅう」の南海トラフ掘削プロジェクト 当初目的の掘削は終了
いつか発生する地震に向けて、ひずみを日々ため続けている南海トラフのプレート境界。海底深くを掘り進めて、コア試料と呼ばれる連続した地質試料を採取することで、巨大地震発生のメカニズムの解明に役立てようとする地球深部探査船「ちきゅう」の世界初のプロジェクトが終わりに近づいている。
当初の目的であるプレート境界までは掘り進めず
残念ながら、目指していた海底下5200メートル付近まで掘り進むことは途中で断念し、その上部にあると考えられるひずみを蓄積しているのではないかと考えられる領域まで進めたかどうかも現段階では分からないまま、これまで続けていた地点での掘削を終了することになった。 ただ、海洋科学掘削としては世界で最も深い海底下深度2836.5~2848.5メートルの区間の約2.5メートルのコア試料を採取。今後、採取した試料の地質構造などを分析し、地震や津波が発生するメカニズムの理解につなげていくことが期待されている。
「ちきゅう」のチャレンジを阻んだ複雑な地質構造
海底を掘り進めていたのは海洋研究開発機構の地球深部探査船「ちきゅう」。紀伊半島沖熊野灘に位置する地点に昨年10月に移動し、世界初のプロジェクトに取り組んでいた。 しかし、掘り進めていた地質は、プレートが沈み込むときに表層部分がはがされて陸のプレート側に形成された「付加体」と呼ばれる場所。はがされたり、長年圧力を受け続けることで、地層が激しく褶曲したり、断層ができるなどした複雑な地質構造は予想以上で、掘り進めていくうちに穴が崩れてふさがることがたびたび起きた。何度も掘り進む穴を変え、7本の穴を掘ったが、最終的には海底下5200メートル付近には程遠い同2800メートル強のコア試料採取が精一杯という結果に終わった。
チャレンジは失敗だった?
海洋科学掘削としては世界最深とはいえ、目標より2000メートル以上浅い場所からしかコア試料を採取できなかったわけだが、即失敗だったというのは早計だろう。海洋研究開発機構の倉本真一・地球深部探査センター長は「コア資料を採取した領域が、ひずみ蓄積領域であるかどうかはこれからの研究に委ねられている。ただ、やや硬い石英が含まれる地質に変わっているという報告もある。私見ではあるが、割れ目などを石英が埋めると地層が硬くなるので、それがひずみを蓄積する『高速度層』をつくっている可能性はある」という。 さらに、倉本センター長は「今回目的を達成できなかったということは、理解できないことを残しているということ。世界で一番浅いところにプレート境界断層があるのは南海トラフしかないという意味では科学的、国際的にも意味があるプロジェクトであるし、地震が切迫していると考えられている日本にとってはこの領域に関する理解を深めることは、近々の課題でもある。掘削しないとわからないことが残っているので、それは近い将来か遠い将来かわからないが、必ずやりたいと思っている」と今後について語っている。