遠隔教育や遠隔医療…途上国のベストプラクティスを衰退する地方に!地方の学生と世界をつなぐとはどういうことか?
■ 「地方の学生と海外をつなぐ」という想いの裏側にあるもの 伊藤:夏に学生を連れてフィリピンで1週間のフィールドワークをするのですが、どこで何を調べるのか、誰に会うのか、アレンジはすべて自分たちでやってもらいます。そのプロセスによって、それぞれの学生が自信をつけて積極的になっていく。 今の学生は中学・高校時代にコロナ禍があったせいもあり、フィールドワークのために初めてパスポートを作る学生もいます。海外でこうした経験をすれば、少しかもしれないけれど、目に見える成長があります。 フィリピンに行った多くの学生は、フィリピンに関連するテーマで卒業論文を書きました。将来の仕事には直接つながらないかもしれないけれど、一時期でもフィリピンの困っている人について深く考えた経験は、いつかどこかで活きてくると思うのです。 ──長らくJICAで働いてこられて、ケニアやフィリピンでの駐在を含め、海外で長く途上国の開発支援をしてきた伊藤さんが教育に目を向けたのはどうしてですか? 伊藤:現場で開発支援をやってきて、いくつかの成功事例はありましたが、別のやり方があったかもしれないと反省することもあります。そうした経験を次の世代に伝えたいと思ったのが理由のひとつです。 もうひとつは、ずっと海外に目を向けて仕事をしてきましたが、ふと振り返ると日本の現状、特に地方の現状が心配になってきたことです。地方をもっと元気にしたい。海外での経験を活かして、地方と海外をつなぐ道があるのではないかと思ったのです。
■ 途上国のベストプラクティスを地方に 伊藤:たとえば、インフラの整っていない国では、オンラインを使った遠隔教育が20年以上前から行われてきました。同様に、医師や看護師のいない村の人々のために、新型コロナウイルスの蔓延するずっと前から遠隔医療が行われていた地域もあります。 途上国でやってきたこのような「ベストプラクティス」を、日本で、特に地方で活かすことができると思うのです。また、日本の地方での課題解決に向けた取り組みを国際協力で展開するということも可能ですし、実際行われているものも少なくありません。 ──国際支援の現場の人を講師に招くことも多いそうですね。 伊藤:先日は農業機械を扱う地元企業で、JICAの中小企業連携事業としてトルコでの国際協力事業に参画した会社の方に話していただきました。この会社は、零細農家が多いトルコ東部地域において、ナツメなどの果樹農業における農業機械の効率性、経済性、安全性の普及・実証事業を実施されました。 学生たちは「こういう仕事をしている新潟の企業があることは知らなかった」と、新たな発見につながったようです。こんなふうに国際とローカルをつなぐ道はあると思っています。 また、学生がこんなことを言うこともありました。 「ODA(政府開発援助)は何のためにあるんだろう? 日本も大変なのに、どうして外国を支援しないといけないんだろう? こう友達に聞かれた時に僕はうまく答えることができなかった。国際関係を学ぶ学生でさえこんな疑問を持つのなら、世の中に海外支援を理解してもらうなんて無理じゃないかと思ってしまいます」