養老孟司「人の致死率は100パーセント。歳を取って怒らなくなった。この先どうなるかはなりゆきだと思えるように」
◆壊れやすい日常のありがたみ 飼い猫まるが亡くなったのは私が入院した年の12月21日です。18歳、人間なら90歳ぐらいの大往生ですが、まだ、ついまるを探してしまう。 今日みたいにあったかい日だと、ここに寝てるだろうな、と思ってしまいます。 日常を大切に、と言っている割には、下手をすると探し物で半日つぶしている。でも女房が探すとバカみたいにすんなり見つかる。日常的に家をよく見ているから、部屋の些細な違いにも気づくんでしょう。僕にはできません。これもバカの壁かもしれません。 だから、奥さんからは「日常を大切にするなら、私を大切にしなさい」って言われています(笑)。
◆養老先生への質問 Q.大きな災害とか事故が起きると、「想定外」という言葉で無責任を決めこむ風潮があります。どう思いますか。 A.想定外という人は、何事も想定できるという暗黙の前提を持っているんですよ。そこなんですよ、問題なのは。なんでも想定し、防げると思っている。でも、そうはいかない。よく危機管理というけれど、どうしていいかわからないから危機なんで、全部を「ああすれば、こうなる」と想定し、計算なんかすることができるわけがない。 そもそも、自分が生まれてきたことが想定外でしょう。 ※本稿は、『なるようになる。――僕はこんなふうに生きてきた』(中央公論新社)の一部を再編集したものです
養老孟司
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