人生は正しい正しくないの二択ではない。なぜ星占い的な言葉は人を惹きつけるのか?
2024年もあとわずか。年末に向けてSNSや書店を賑わす様々な「占い」を、ついチェックしてしまう人も多いかと思います。ホロスコープ占いの大ベストセラー「12星座シリーズ」の著者・石井ゆかりさんが紡ぐ言葉は、物語のように心の深い場所に届くことから多くのファンに愛されています。そもそもなぜ私たちは、星の動きを元に語られる未来の在りように心惹かれてしまうのか? 人間と占いの不思議な関係について、新刊エッセイ『星占い的時間』からひもといていきます。 石井ゆかり ライター。星占いの記事やエッセイなどを執筆。「12星座シリーズ」(WAVE 出版)は120万部を超えるベストセラーに。『愛する人に。』(幻冬舎コミックス)、『夢を読む』(白泉社)等、著書多数。累計発行部数は520部を超える。
人はなぜ占いに不安と恐怖をぶつけるのか?
なぜ占いに不安と恐怖をぶつけるのか。それは、なんとか心を支えて、不安を宥め、絶望をゆるめて、今日も生活していくためである。 占いやまじないは「弱さ」の表れと考えられている。たしかにそうかもしれない。だが、裏を返せば、そこには強烈な生への意志がある(本文より) 同文は、星占いの記事やエッセイを執筆する石井ゆかりさんが著書『星占い的時間』で、“生活の星座”である蟹座について綴った言葉だ。ドストエフスキーの『貧しき人々』やオーウェン・デイヴィスの『スーパーナチュラル・ウォー』を引用して、自分ではどうすることもできない未曾有の事態に巻き込まれたとき、不安な心を無責任な占いにぶつける傾向が昔からあったとある。「生活はなんの心の支えもなしに続けられるほど甘くない」と、本章は締められる。 生活と占い、その関係性は深い。大病を患った子どもを前に、急に占いを信じ始める親がいるといった文章を読み、他人事ではないと思った。本書の冒頭で「星占いには、少なくとも今のところ、科学的な裏付けはない。(中略)本書の内容の大半はよく言ってファンタジー、悪く言えばインチキである」と繰り返されるように、石井さんは葛藤と希望を行き来しながら、占いに向き合い続けている。彼女の星占い的ことばに想像性があるのは、古今東西さまざまな文学作品を頼りに、哲学することを止めないからだろう。 本書は、国内外の文学作品の言葉を引用して星を語りながら、この時代に起きている社会的な出来事を関連させて、思考をめぐらせるエッセイだ。前作『星占い的思考』で「占いは生活と直結しているがゆえに不幸な言葉や過激な言葉は用いることができない。しかし、文学というフレームワークを用いることで、星占いを語る言葉は広く、豊かに耕すことができるのではないか」と書いたように、文学作品を星占いの視点で読み直すことで、占いの言葉の新しい広がりを発見しようとする。彼女がどのような本に触れて、物語と占いを接続させているのか、まるで人生問答のような問いかけを与えられ、自然と“生きる”ことについて考えてしまう哲学書のようだ。 個人的な話になるが、私は母が手相を見られる人であったために、占いに対してトラウマがあった。友人を紹介しても、ほんとのところで私の話よりも占いで見たものを信じていたり、大事な選択の局面で占いを引き合いに出してきたり、目の前の紆余曲折よりも仮想が真実となって閉じ込められる感じに、手相を見られない私は絶望的な無力感を覚えて、占いと距離を取っていた。「絶対に信じない」と、拒絶反応ともいえるほどの距離感だったと思う。 しかし、めぐり合わせは不思議なもので、友人をきっかけに鏡リュウジさんの存在を知り、お遊び感覚で『タロットバイブル 78枚の真の意味』という本とタロットカードを手にとった。そこには、タロットは“永遠の哲学”を表象するものとして、「この世界にはみんなが納得できる答えや正解があるという前提のもとに、隠されてきた真実を啓示するものとしてタロットがある」と書かれていた。