生前に社会とつながるきっかけにも。最期の社会貢献、「遺贈寄付」という選択
遺贈寄付は、社会とのつがなりを生み出すことにつながる
――齋藤さんが遺贈寄付に関わり始めたきっかけはなんだったのでしょうか。 齋藤:もともとは信託銀行で、遺言信託(※)業務に携わっていまして、その仕事柄、お客さまから「普通に配分をする遺言ではなくて、寄付のための遺言を作成したい」という問い合わせをいただくことが度々あったのが最初のきっかけです。 当時は、私も遺贈寄付に関する知識はなかったので、シンポジウムに参加したところ、弁護士や税理士で遺贈寄付推進に関心を寄せる仲間に出会い、共に遺贈寄付に関する勉強会を主催するようになりました。 ※信託銀行等が顧客の遺言作成をサポートし、遺言者の死亡後に遺言執行者として相続の手続きをするサービス 齋藤:その後、当時勤めていた信託銀行では、信託商品の1つである遺言代用信託(※)を寄付に使えないという課題を感じていたため、遺贈寄附推進機構株式会社を設立し、別の信託銀行と共同で商品開発して、遺言代用信託による寄付を実現させました。 ※信託銀行などに財産を信託して、生存中は委託者本人のために管理や運用をしてもらい、死亡後は配偶者や子どもなどに財産を引き継ぐことができる信託。 ――遺贈寄付の必要性を感じていらっしゃったんですね。 齋藤:というより、遺贈寄付をしたいと感じている人がいて、それが実現できないということに対して、当初は憤りに近いものを感じていました。 大層なことを言うと、経済には「経世済民(けいせいさいみん)」、つまり国を治めて、人を助けるという意味が込められています。銀行がその流れを止めてしまうというのは絶対にやってはいけないことだと思ったんです。 ――その思いが齋藤さんの活動の根底にはあるわけですね。齋藤さんが考える、遺贈寄付の意義とはなんでしょう。 齋藤:遺贈寄付を選択すると、生前から社会との接点ができるということです。最近は独身の方やお子さんのいない世帯も増えていますが、特に男性の場合、職場以外でのコミュニティーに属していないという方が多いと感じます。そういう方にこそ遺贈寄付がおすすめです。 ――遺贈寄付は亡くなってから行うものだと思うのですが、どのようにして生前につながりをつくるのでしょう。 齋藤:私がおすすめしている遺贈寄付の形は、遺言や信託の準備をするだけでなく、その意志を寄付先の団体に伝えることです。そうすると団体の方から、「イベントがあるので来ませんか?」「報告書がでるのでお送りします」と、アクションをとってくれますので、それが社会とのつながりになっていきます。 団体側からすると、遺贈寄付はその方の最後の思いが詰まっているわけですから、応援されている気持ちを特に強く感じ、寄付する人を大事にしてくれます。 ――実際に遺贈寄付を選択した方の声で印象的なものはありますか。 齋藤:たくさんあるのですが、1つ挙げると奥さまをがんで亡くされた男性のことです。その方は奥さまの一周忌を終えたくらいのタイミングで、私たちががん患者支援団体と一緒に行った遺贈寄付のセミナーの参加者でした。 最初にお会いした時は随分気落ちをされているご様子でしたね。 ただ、その支援団体ががんで苦しむ人を減らす活動をされているということに共感されて、団体への遺贈寄付を決められたんです。 遺言書を書いたあとに「妻にいい報告ができます」と随分晴れやかな表情をされていたのが印象的でした。 ――心のつかえが取れたということなのでしょうか。 齋藤:そうだと思います。遺贈寄付の場合、自分の人生と全く関係のないところに寄付をするケースはほとんどありませんし、お勧めもしていません。 人生を振り返ってみて、自分が興味を持っていたことに取り組んでいる団体、共感できる団体に寄付をすることで、ご自身が納得できるような寄付になるかと思います。 私たちの団体に寄付先の選定を相談された際には、その方の人生の棚卸しを一緒に行いながら、寄付先を決めるようにしています。 ――遺贈寄付をする際に、注意したほうがいいことはありますか。 齋藤:団体によっては遺贈寄付を断るケースもあるので、自分の考えている形で寄付を受け付けてくれるどうか、事前に確認することが大切です。 断られるケースで多いのは、不動産です。自宅くらいであればまだいいのですが、山林や田畑の場合、売れずに困ることが多いことから、不動産は一切受け入れていないという団体も多いんです。 あとは遺贈には、遺贈する財産を特定しない「包括遺贈」と、特定する「特定遺贈」というものがありまして、包括遺贈の場合、もし被相続人に負債があると、それも引き受けることになってしまうので、包括遺贈は受け入れないという団体がほとんどです。 このあたりも含めて、一度は遺贈寄付に詳しい信託銀行などの専門家に、相談をされたほうがいいかと思います。