カスレ、オニオングラタンスープ 冬に楽しむ熱々フレンチ煮込み、銀座で本場の味を
■うま味・酸味・燻製香が三位一体のシュークルート
3品目はドイツと国境を接するアルザス地方の「シュークルート」。塩漬けキャベツを自家製ベーコン、自家製ソーセージ、塩漬け豚バラ肉、ニンジンやジャガイモなどと一緒にブイヨンで蒸し煮にして作る。 肉がゴロゴロ入ったボリューミーな煮込みだが、陰の主役であり、味付けの要になるのがキャベツだ。千切りにして濃度2%の塩水で漬け込んで自然に乳酸発酵させるが、夏は1週間で酸っぱくなるのに対し、冬はキャベツ自体も春夏より甘みが強いうえ、2~3週間かけてゆっくり発酵するので味に深みが出る。 そのキャベツと肉類を30分ゆっくりと煮込むうちに、肉から出た脂肪分とキャベツの水分が溶け合って乳化する。うま味と酸味とベーコンの燻製(くんせい)香が三位一体になるように煮上げるのが、梅津さん流のシュークルートだ。
■夜食の定番、オニオングラタンスープ
煮込み以外で、木枯らしが吹く夜にぜひ食べたいのが「オニオングラタンスープ」である。黒板メニューで1月いっぱいまでは提供される予定。普段は平日ラストオーダーが午後11時、12月は午前0時まで延長して閉店時間は同1時。「夜遅くにオニオングラタンスープとワイン1杯だけのご利用も大歓迎」とのことだ。古き良きパリで夜遊び後の夜食の定番だっただけあり、スープとはいっても1食分のボリュームがある。 この料理のポイントは付ききりで混ぜながら、タマネギをあめ色になるまでバターでよく炒めることにある。この店では1回の仕込みにタマネギを10キログラム使うから、混ぜるだけでかなりの重労働。また、通常はその後、タマネギを牛のブイヨンで煮込むところを、ブイヨンを卵白で澄ませた牛のコンソメを使い、雑味がなく洗練された風味のスープに仕立てる。最後にバゲットの薄切りを浮かべ、グリュイエールチーズをたっぷりのせてオーブンへ。タマネギのおいしさを最大限に引き出したスープの傑作だ。
■選択の自由を楽しめるビストロ
グランドメニューには「ラム酒風味のババ」「クラフティ」「プロフィットロール」など、10種以上の魅力的なデザートが並んで目移りする。なかでも梅津さんのお薦めは「パリ・ブレスト」だ。料理と同じく、注文が来てから作り始める。 焼きたてのしっとりしたシュー生地にサンドするクリームは2種類。一つはヘーゼルナッツのプラリネクリーム、もう一つはコーヒー風味のホイップクリームの絞りたてが供される。一口食べるだけで、洋菓子にも鮮度の良さがあることを実感するだろう。 最後に、この店にはグラスワインだけで30銘柄以上、ボトルワインは約300銘柄を取りそろえている。料理もワインも、自分で好きに組み合わせられる自由度が非常に高い。食事にマニュアルは不要。型にはまらず、かしこまらず、選ぶことを存分に楽しんでほしい。 文:畑中三応子(食文化研究家)
畑中三応子
東京生まれ。『シェフ・シリーズ』『暮しの設計』(中央公論社)編集長を歴任。近現代の食文化を研究・執筆。第3回「食生活ジャーナリスト大賞」ジャーナリズム部門受賞。著書に『ファッションフード、あります。』(ちくま文庫)、『熱狂と欲望のヘルシーフード』(ウェッジ)など。 ※この記事は「THE NIKKEI MAGAZINE」の記事を再構成して配信しています。