明るく軽やかに社会課題に触れる。『笑える革命』小国士朗が考える企画の力
そもそも僕が大切にしていたのは、「Tele-Vision(遠くにあるものをー映す)」ということ。これは、テレビの語源です。病気になって、一度立ち止まって自分の仕事ってなんなんだろう?ということに向き合い直した時に、「Tele-Vision」に忠実にやっていくことの方が大事で、「テレビ番組」はその表現方法の一つでしかないんだと気づきました。 アプリも、リアルイベントも、僕からしたら「Tele-Vision」の1つ。それまでテレビ番組一択だと思っていた表現方法が、自由になったんです。 とはいえ、そのことをNHK時代にすぐに理解してもらえたかというと、それもまた難しかった。 「注文をまちがえる料理店」ですら、「いつドキュメンタリーをつくるの?」と言われてずっこけそうになりました。「テレビ番組では届かないから、リアルイベントにしているんだけどな......」と。でも、それくらい呪縛というのは根強いものだと気づいたんです。 ── 届けるために、表現方法を自由に選んでもいいんだという気づきが、数々のヒットを生んだんですね。 ただ呪縛というのは本当に根強いから、その呪縛から自分を解き放つには、たくさんのヒットでは全然足りなくて。たくさんの大ホームランをうち続けないといけないと思っていました。そういう気持ちで、あれこれやる内に仲間も増えていって、すごくいいチーム編成もできてきた。 でも、最後は25個くらいのプロジェクトを同時に抱えて進行しているような状況になって、心身がくたくたに疲れてしまった。 NHKのポテンシャルは本当にすごいと確信していたからこそ、その可能性を全部引き出したいと思って動き続けてきました。でも一人でできることには当然限りがあるし、ああいうやり方ではそりゃあ限界が来るよね、と今になっては思います。あの時は、どうすることもできなかったけど。 ── それでも、いまもいろんな人に「助けてほしい、相談に乗ってほしい」と言われることがあると思います。動くためのエネルギーやモチベーションって、どこにあるんでしょう。 やっぱり、自分は「モノの見方が変わるアイデア」が生まれる瞬間のカタルシスが大事なんですよね。そのアイデアが世の中の人に届いたとき、どんな反応になるんだろう、笑うだろうな、みたいなことを思う。 笑ってくれたらいい、というのはあるかもしれませんね。 ── 小国さんの企画には、「物事の見え方が面白いものに変わる」というものもあれば、deleteCのように、アイデアを通して課題解決への蓄積を生み出しているものもある。社会へのインパクトと、ユーモアを持つこと、どちらがご自身の本質的な部分だと思いますか? どっちの自分もいるんですよ。いわゆる社会起業家のように"役に立つ"仕組みを社会に実装していこうとする僕もいれば、無駄と余白を慈しんで自由に考えられる自分もいる。 その2つが揃ってこそ、多くの人を巻き込む"笑える"企画をつくり続けられているんじゃないかなと思っています。