明るく軽やかに社会課題に触れる。『笑える革命』小国士朗が考える企画の力
僕が考えている企画は、コント
── 小国さんの企画に共通する要素の一つに「笑える」こともありますよね。企画を通して生まれる風景に、どこかおかしさがある。 それで言うと、僕がやっていることってどこか「コント」っぽいなぁと思っているんですよ。 「注文をまちがえる料理店」も、言ってみれば「もしもレストランのウェイターが認知症のおばあちゃんだったら」という設定なわけで、志村けんさんのコントにもありそうなタイトルじゃないですか? ── 企画をコントのように考えるようになったのは、なぜなのでしょうか? 原体験として、中学生・高校生の頃に、コントを毎日のように見ていたからでしょうね。なかでも印象的なコントがあって。そのコントでは、途中である1つの設定が明かされただけで、起きていた出来事の意味や見え方がぐるりと変わってしまう。 そこで、モノの"見方"一つで見ている景色がガラッと変わってしまうことのカタルシスを知ったんですよね。 「注文をまちがえる料理店」を思いついたのも、あるグループホームで取材をしていたときのことでした。そこは、認知症の状態にあるじいちゃん、ばあちゃんが暮らしているんですけど、基本的に自分でできることはなんでも自分でやりましょうっていう施設だったんですね。だから、料理も掃除も洗濯も、時にはお買い物だってやれる人は自分でやる。で、ある日の昼食のことです。その日の献立は「ハンバーグ」だと聞いていたのに、「餃子」が出てきて。 もう、普通なら絶対にツッコムじゃないですか。ハンバーグが餃子になってるんだから。でも、僕の目の前には、そのことについて誰も突っ込むことなく、めっちゃおいしそうにパクパクと餃子を食べているという風景が広がっていた。その瞬間に、「その場にいる人全員が間違いを受け入れてしまえば、間違いってなくなっちゃうんだ」という新しい見方に気づいて、そこから世界が広がっていきました。 ── 一般的に見れば「間違い」でも、見え方が変われば楽しめるアクシデントになってしまうんですね。 だから、僕は企画を生み出すときに、「それでモノの見方が変わるの?」ってことを自らに強烈に求めてしまっている気がします。 僕の中ではたぶん、モノの見方が変わるような企画を企画と呼んでいて、それが生まれた瞬間が僕にとってはマジで至上の喜びで、それがとんでもなく強烈なので、その後も思いついたアイデアを絶対にカタチにしたいと思えるし、カタチになったプロジェクトを続けていこうという原動力にもなっている気がします。 ── 小国さんは社会課題に対して解決の糸口を見つけよう!というよりも、社会のありかたや世の中で起きている出来事をじっと見て、楽しみを見つけているように感じます。 僕は、「目的」を重要視しすぎるとイノベーションって生まれづらいのではと思うんです。もちろん目的は大事ですけど、目的に一直線に向かうことだけを重視すると「無駄だよね」と思うことがたくさん出てきてしまう。でも、それってその目的に対しては無駄なだけなんですよね。 「地方創生をやっていきましょう」「売上を上げていきましょう」ということだけが目的になっていたら、「倉庫に眠っているこの変な着ぐるみ、なんか愛おしいよね」って話にはならないじゃないですか。そしたら「ゆるキャラ」なんてムーブメントは生まれなかっただろうなって思うんですよ。 こういう無駄を慈しんで、楽しんじゃうような人って、僕の一回り、二回り上の世代を見ると何人も具体的な名前が浮かぶけど、いまの自分と同世代(40代)にはそういう人が少ないな、とも思います。 「無駄かもしれないけど、なんかいいよね」みたいな気持ちを大切にして、その無駄や余白に光を当てる、抱え込む、慈しむっていう視点が持てると、その企業や組織や地域はイノベーションを生み出すかもしれない、と思うんですよね。 ── サントリーウエルネスとJリーグと共同で取り組んだ「Be supporters!(ビーサポーターズ)」も、そうした一見「無駄」に思えることがイノベーションにつながった企画ですよね。 そうですね。「Be supporters!」は、高齢者施設に入居されている方や、認知症の状態にある方などが地元サッカーチームのサポーターになるという企画で、日頃「支えられる」場面の多いじいちゃん、ばあちゃんたちが「支える」側になることで、心身ともに元気になるというものです。 2020年に「注文をまちがえる料理店」をはじめとしたプロジェクトで交流があったサントリーウエルネスの沖中直人社長に構想を話したところ、一緒に取り組んでくれることになりました。「サントリーの社是は『人間の生命の輝きをめざし』。人生100年時代、『予防』だけではなく、『共生』という考え方を大切にしていきたい」という会社の想いが、Be Supporters!の描く世界観と一致したんですね。