鬼から仏の大垣日大・阪口監督 祖父孫鷹で挑む最後のセンバツ
第95回記念選抜高校野球大会の開幕日に登場する大垣日大の阪口慶三監督(78)。昨春に続き、孫の高橋慎選手(3年)とともに甲子園への切符を手にした。高橋選手が最上級生となり、「祖父孫鷹(だか)」で挑む最後のセンバツとなる。 今大会の出場36校の監督で最高齢の阪口監督。高橋選手の評価を聞くと、「孫だから言いにくいんだけれどね」と断りながら、照れくさそうに語った。 「誰に似たのか分からんけれど、良い打者だね。全く穴がない。おじいちゃん(の現役時代)をはるかに超えている」 チームの中心選手で、昨秋の公式戦でも打率3割超を記録した孫への賛辞の言葉は尽きない。 高橋選手は昨春も主力としてセンバツに出場した。1回戦の只見(福島)戦で先制適時打を放ち、阪口監督の甲子園における昭和、平成、令和の「3元号勝利」達成に大きく貢献した。 阪口監督が高く評価するのは、どのコースにも対応できる柔軟な打撃だ。高橋選手も自身の強みを「コースに関係なく、しっかりと打ち返せるところ」と言い切るように、祖父と孫の考えは一致している。 だが、2人の見解が違うこともある。阪口監督は「孫だから、他の選手よりも厳しく言っている」と強調する。一方で、高橋選手は「(自分に厳しいとは)特に感じていない」。冬場には監督からスイングを褒められたという。 阪口監督は2004年まで指揮した東邦(愛知)時代を含め、春夏通じて甲子園優勝1回、準優勝3回の実績を持つ。東邦時代は猛練習で「鬼の阪口」と呼ばれたが、現在は「選手が楽しむこと」を最優先し、常に前向きな言葉でチームを率いる。高橋選手は「(監督を)『鬼』とは感じないです。たまに練習が早く終わる時には『仏だなー』と思うけれど」といたずらっぽく笑う。 高橋選手が祖父の偉大さを実感したのは、9歳の時に現地で観戦した14年夏の甲子園の藤代(茨城)との1回戦だ。大垣日大は初回に8点を奪われながら、驚異的な追い上げで12―10と逆転勝利を収めた。祖父も甲子園でのベストゲームに挙げる試合の記憶が、高橋選手の脳裏に深く刻まれた。愛媛県の中学出身ながら、「甲子園に一番近いと言ったらここ」と岐阜県にある大垣日大に進んだ。 指導者と選手の関係で2年間を過ごした。高橋選手が3年生となり、2人で挑む高校野球は最後の年となる。阪口監督は「孫はかわいい。そんな孫を2回も、今年の夏も含めれば3回も甲子園に連れて行ける。おじいちゃんとして、最高の喜びを持って孫のプレーを見てやろうと思っています」と語る。 大垣日大は初戦で沖縄尚学と対戦する。阪口監督は今回で春夏通算34回目の甲子園出場。長いキャリアの中でも唯一無二のシーズンが幕を開ける。【高野裕士】