三宅唱監督『夜明けのすべて』インタビュー。「恋愛」ではない人同士のつながり、ふたりを見守る人々
ブランケットを貸すというシーンに映る、恋愛ではない、ただ「渡す」という行動
公式インタビューで松村北斗さんが言及する、会社で山添くんが藤沢さんと居合わせた際に、ブランケットを貸すというシーンがある。松村さんは「あの状況に男女が二人でいてブランケットを貸すって、必要以上に親密に見えてしまうんじゃないか。二人の間に恋愛的な何かを感じさせてはいけないし、山添くんの優しさみたいなのが出過ぎてもよくないし……」と語っているが、まさに、ロマンティックに見えるのをわざと避けてる、とも思えないほど、自然な振る舞いとして映っている。 「『恋愛未満』とか『恋愛以前』っていう関係や状態として捉えたいとまったく思ってなかったんです。避けるとも違って、普段の自分たちの生活で当たり前にあるように、性別に縛られないただの人間同士のやりとりを撮りたい。でも、口で言うのは簡単だけど、実際にそう見せるのは難しいかもと思っていたら、このふたり(上白石と松村)それぞれがしてきた役づくりや関係性づくりが、かなり足腰強くされていて、なんの心配もなかったですね。 物を渡すって、日々なんの意識もせずにやっていると思うんです。フィクションの中だと、つい前後のつながりから意味を持ってしまいがちだけど。うん、そうですね。あんまりそういうことを深く考えずに素直にやった。ふたりだからこそできるなにか……『空気』っていう言葉じゃない表現を使いたいですけど、そこにいるふたりを素直に撮りたいと思っていました。素直というか、二人がまさに前後なんか関係なく、つまり裏の気持ちや他の目的なんかなく、渡す必要があるから渡す、そういう気持ちよさがあったんだと思います」 予告編でも使われている、山添くんの家に藤沢さんが行ってふたりで話している様子も、本当に友達でしかないというか、性愛のニュアンスがなかった。 「男女の友情が成立するか? っていう、ま、どうでもいい話をする人がよくいますよね」 「うん」 「それって相手によるし、答えなんてないんで、僕はどうでもいいと思うんですよ」 「うん」 藤沢さんとこう話す山添くん(演じる松村さん)の関係性のつくり方には、対・藤沢さんに限らず、ただ隣にいる人に気遣うというトーンがある。性愛の感情が、欲望が、金銭的な利害関係があるから人に優しくする、ではなく、他意がないように見える。そのたたずまいにわたしは安心したのだろう。応じる藤沢さんの、どこか抜けた人物像をつくりあげた上白石さんも魅力的だ。