三宅唱監督『夜明けのすべて』インタビュー。「恋愛」ではない人同士のつながり、ふたりを見守る人々
ふたりの周りにいる人たちの、「見守る」という描写
「この物語は、かれらの見えない内面だけではなくて、それこそ、ブランケットを渡すみたいな小さなことでもアクションするのをやめない、試行錯誤する人たちだから魅力的なんだというところを表現しようとしたんですよね。それと同時に、二人を見守る周りの人の存在、彼らが二人がどう見ているのかっていうアクションも重要になってくる」 序盤、ある会社でのシーンで藤沢さんは苛立つ。そのときの上白石さんの演技は、顔の微細な動きや佇まいを通して、後ろで起きている、イライラの原因になっているだろう出来事への、人の言動への関心の気配を画面に焼き付けている。その奥には同僚の平西さん(足立智充)がいて、取り乱した藤沢さんへの戸惑いと気遣いの微妙な心理がうかがえる。ささやかなショットだが、とても印象的だった。 またもうひとつ好きな社内のシーンがある。仕事の話をしている藤沢さんと山添くんが仕事の話をしており、社長の栗田(光石研)が同じ画面の隅に映り込んでいる様子だ。栗田がふたりにかすかに意識を払っているのがうかがえ、ちゃんと見てくれてる、と思えるのがわたしは好きだった。 「そういう『見守る』みたいな描写を、単独で寄って撮らずに同じ空間のなかで成立させる演出は、やってて楽しかったですね。栗田や、住川さん(久保田磨希)らほかの従業員があのふたりの会話をどう見てどう聞いてるのか、どう同じ場にいるのかっていうのは、シナリオに書けないレベルなので、撮影現場に入ってその空間でいっしょに立ち上げなきゃいけない。オフィスでふたりがどこに座ってて、どこに社長がいたらいちばん良いか? っていうことを考えるのは、悩みました。 僕がやろうとしたのは、小さな仕草とか、あるいは立ち位置とか座り位置を決定したり、雰囲気をつくったりです。ただ、今回はあんまり作為みたいなものが見えないようにしたかった。松村くんも言ってたんですが、これは『見せびらかす映画』じゃない。そのあたりはこの映画のテーマにも関わる点なので、いろんなものをお客さんが自然と発見してもらいたいですね。だから『たまたま撮ったら映ったんだ』って言いたい(笑)」