空中給油の肝・遠隔視認システム改善は26年か 特集・KC-46が抱える”持病”のいま
ボーイングが製造する空中給油・輸送機KC-46A「ペガサス」を、米国が日本へFMS(対外有償軍事援助)により最大9機売却することを承認した。しかし、KC-46Aは日本での運用には直接影響しないものも含め、品質問題などのトラブルを抱えている。 【画像】KC-46の給油オペレーター席やコックピット 航空自衛隊では、KC-46Aの前身となるKC-767も2010年度から運用している。現時点で空自はKC-767を4機、KC-46Aを4機の空中給油機8機を保有しており、発注済みである2機のKC-46Aを合わせると2機種10機となる。これに最大9機のKC-46Aが加わる可能性が出てきた。 2機種とも民間機の767をベースとしているが、対応している給油方式や燃料の搭載量、エンジン、コックピットの仕様など、異なる点が多々ある。また、KC-46Aは米空軍が「カテゴリー1」と定義する重篤な問題を複数抱えており、解決までに時間がかかるとみられる点も気になるところだ。 今年7月には、世界一周45時間の無着陸飛行に成功したKC-46A。KC-767との違いや、現在の課題を見ていこう。 '◆KC-767ATからKC-46Aへ KC-46Aの前身となったKC-767は、767の製造分担国である日本とイタリアのみが4機ずつ採用。このため、製造は8機で終了した。一方、KC-46Aは米空軍向けに179機の製造が計画されている。今年8月31日時点の発注は3カ国153機で、内訳は米国が143機、日本が6機、イスラエルが4機となっており、軍用機として改修前の「767-2C」として納入済みは93機で、米国向けが89機、日本向けが4機となる。 KC-767とKC-46Aの空中給油機としての違いを見ていくと、対応している給油方式が異なる。KC-767は米空軍機が採用するパイプ状の「フライングブーム」方式のみ、KC-46Aはこれに加えて米海軍・海兵隊機のホース状の「プローブ・アンド・ドローグ」方式にも対応。最大積載燃料も、KC-767の16万660ポンド(約73トン)からKC-46Aは21万2299ポンド(約96トン)と約32%増えた。 ベースとなった民間機は、KC-767が767-200の航続距離延長型「767-200ER」なのに対し、KC-46Aは長距離貨物機「767-200LRF」として計画され、民間向けは実現していない機体だ。このため、現在の米空軍などの公式書類では、KC-46Aも767-200ERの派生型と位置づけている。 エンジンはKC-767がGE製CF6-80C2だったが、KC-46Aはプラット・アンド・ホイットニー製PW4062に変わった。 KC-46Aは、米空軍が2007年から2008年にかけてKC-135の後継機選定を行ったKC-X計画で、ボーイングがKC-767の米軍仕様「KC-767 Advanced Tanker」として提案したものが母体になっている。ボーイングによると、KC-767ATは、767-200ERの胴体、767-300Fの主翼・着陸装置・貨物用ドア・床、767-400ERのコックピットとフラップを組み合わせたものだった。 KC-767ATが提案されたKC-X計画では、いったんはノースロップ・グラマンとEADS(現エアバス)連合によるA330 MRTT(提案名はKC-30T)がKC-45として選定されたものの、ボーイングの異議申し立てで機種選定はやり直しとなり、KC-46Aが選ばれている。 2011年2月24日にKC-46Aの開発プログラムが立ち上がり、コックピットは787と同様の15インチ・ディスプレイを装備するなど、仕様が見直された部分もある。 給油システムは、フライ・バイ・ワイヤ方式の最新型で、給油オペレーター席には24インチの高解像度3Dディスプレイが備えられる。ところが、この最新システムに問題があり、ボーイングは設計見直しなどで70億ドル以上の費用を負担している。 ◆最新給油システムに不具合 KC-46Aで問題となっているのは、米空軍が「カテゴリー1」と位置づける重大な欠陥が7つもあることだ。最悪の場合、死傷事故や航空機の損失・損傷を引き起こす可能性のある欠陥を指すもので、現在は運用手順の見直しや給油できる機体の制限などを行っており、米空軍はうち3件は解決に近づいていると説明している。 7件のうち、3件は空中給油システムに関するもの。残り4件は機体の品質に関するもので、燃料系統の漏れ、ドレンマストの亀裂、給油ドレンチューブの亀裂、運航管理システムの不安定性が問題となった。 空中給油システムの問題は、RVS(Remote Vision System:遠隔視認システム)で発生。フライングブームがA-10攻撃機への給油中、低推力の機体の動きに合わせてブームが作動しない、空中給油用カメラの映像が太陽の位置により不鮮明、映像が不鮮明な時にブームが給油を受ける機体(受給機)に意図せず接触する、といった懸念が出ている。 カメラ映像は、太陽の光がまぶしいと一瞬消える、ブラックアウトするといった事例が報告され、KC-46Aのオペレーターが受給機のレセプタクル(受給口)を十分に確認して給油を始められないため、運用上の制約が出ている。 「RVS2.0」とも呼ばれている新システムは、米国政府の報告書によると「開発が順調に進むと仮定した場合、2023年後半から2024年5月にかけて新型RVSとブームの初期運用試験・評価を完了させる計画」だった。しかし、米国での報道によると、コリンズ・エアロスペースが製造するRVS2.0の導入は、2026年にずれ込む可能性が高いという。 こうした設計上の問題だけでなく、製造工程に起因する残置物問題も発生。コロナ前の2019年にボーイングを取材した際にも、この問題が話題となり、担当者からは改善策を講じているとの説明があったが、その後も残置物問題は起きており、さまざまな“持病”の根絶に手間取っている印象だ。 ◇ ◇ ◇ KC-46Aは、10年前の2014年12月28日に、空中給油システムを装備していない767-2Cの試験機(EMD-1)が初飛行。2019年1月25日に、初号機(56009)と2号機(76031)の2機が初納入された。昨年2023年には、通信機能を強化するBlock 1(ブロック1)へのアップグレード契約をボーイングは受注している。 民間機として豊富な実績を持つ767がベースのKC-46Aは、飛行するだけであれば特段問題のない機体と言える。しかし、もっとも重要な給油システムの不具合に加え、コロナ前から品質問題が報告されている点は気がかりだ。改良型のブームへの換装が始まるとされる2025年から、RVS2.0の導入が見込まれる2026年にかけて、品質改善の山場を迎えることになりそうだ。
Tadayuki YOSHIKAWA