FIREのためにすべてを犠牲にした父は、その生活を楽しむ前にこの世を去った。私は誰にも早期退職を勧めない(海外)
がんの診断ですべてが変わった
父は2008年の1月まで、そのような暮らしを8年間続けた。かなりやせ、喉の痛みが数カ月続いていると言っていたが、医者に診せようとはしなかった。出費を恐れたのだ。 私たち兄妹が医師である知り合いに診てもらうよう説得し、ようやく原因がわかった。58歳だった父は、ステージ4の食道がんを患っていて、余命6カ月と告げられた。その診断のショックが落ち着いたころ、15歳からずっとため続けてきた財産を使う機会が失われたことに、父は愕然とした。 ある日、父は子供たち一人ひとりに1万ドル(約150万円)の小切手を書き、何か高い買い物をするよう希望した。父が自分ではできなかった贅沢をしろ、と。冗談めかして、自分が節約してきたから、次は君たちが使う番だと言った。そうやって順番に貯めたり使ったりするのが家族の伝統だと言って笑った。 そのころすでに、私たちに付き添って買い物に行く力は残されていなかったので、私たちはそれぞれ、買ったものを父に見せた。私はそのころ妊娠していたので、ブランドものの高価なオムツバッグを買った。本物のダイヤモンドのピアスも買った。私の耳につけたピアスを見て、父はうれしそうに微笑んだ。車の天井の内張りを画鋲でとめていた父が、子供のためにダイヤモンドのピアスとデザイナーブランドのオムツバッグを買う父に変わった。本当に楽しそうだった。 その後まもなく父は他界した。診断から本当に6カ月後だった。
誰も完全に引退すべきではない
最近、人々が早期退職したいと言っているのを聞くと、私はホラー映画で10代の若者が地下室へ下りていくのを見ているような気分になる。人々の仕事への取り組み方にも、情熱をお金に換える方法にも数え切れないほどの種類があることはわかっているが、それでも私には、誰も完全に仕事をやめるべきでは、あるいは少なくとも、人生に目的をもたらす何かをやめるべきではないと思える。 嫌いな仕事をやめる? ぜひそうすればいい。ほとんど稼ぎのない、あるいは大した儲けにならない仕事に今よりも多くの時間を費やす? 文句があるはずがない、何しろ、私自身ライターなのだから! ボランティアとして自分の暮らす地域に貢献したり、家族や友人の介護をしたりして暮らす? どうぞ、やってください。だが、人生に目的をもたらす何らかの活動を計画することもないまま、完全に退職する? 私には、誰にとっても正しい選択だとは思えない。 私とて、父からいくつかの倹約方法は受け継いだ。買い物するときには価格を比べるし、食品店でも自社ブランド製品でカートを満たす。使い古したデザイナーブランドのオムツバッグは、今でもラップトップを運ぶときに使っている。このバッグが、父から学んだすべてを思い出させてくれる。 そして、父の教えのおかげで、私には経済的な計画があるし、堅実に貯蓄もしている。年をとれば仕事のペースは落とすだろうが、引退するつもりはない。書けるうちは書き続ける。必要とされる限り、ボランティアもする。父からもらったダイヤモンドのピアスを肌身離さず身につけながら。 レベカ・サンダーリン氏 はフリーランスのジャーナリスト、脚本家、マーケティング戦略家として活動している。
Rebekah Sanderlin