台湾に「経済的圧力」をかけた中国の大誤算…! じつはまったくの「逆効果」だったかもしれない…
「水道の蛇口」のように自由自在に操るも……
中国側の観光客の出し入れは自由自在で「水道の蛇口」にも例えられるほどです。中国当局の意図によって、多くの観光客を送ったり、あるいは急に止めたりすることで、中国の経済的影響力の大きさを操作しようとしてきました。 実際、台湾への中国人観光客数は2016年以降、最盛期の3分の2まで減少。しかし、これによって台湾の世論が「中国に融和的でなければ経済が立ち行かない」という方向へ変わることはなく、中国の「攻勢」によって政治的目的を達成することは難しかったといえます。 その理由として、台湾政府の施策が挙げられます。中国以外の国から観光客の受け入れを増やし、中国人観光客の減少によって被る損失をカバーしようと模索しました。 もう一つは、中国側から中国人観光客を送り出す国営系の旅行会社から、受け入れる側の台湾の旅行会社への「観光客受け入れ要請」が強硬すぎたために、地元の旅行業者の反発を招き、「それなら別の国からの観光客を増やした方がいい」と、中国以外を対象にした観光政策を促進することになったためです。 また2020年の総統選挙では直前の香港デモが台湾世論に大きな影響を与え、蔡英文が再度、総統に選出されることになりました。これは2019年から2020年にかけて起きた香港での反中デモとそれに対する強権的な取り締まりが、台湾にも影響を及ぼし、対中融和ではなく対中強硬政策を打ち出す蔡英文が支持される結果につながりました。 また2024年1月に行われた総統選挙では、中国側がやはり独立派とみなす民進党の頼(らい)清徳(せいとく)が当選し、台湾は今後もアメリカや日本との連携を深めていくものとみられます。
台湾産パイナップルの禁輸
中国は台湾に対して様々なエコノミック・ステイトクラフトを仕掛けていますが、常に中国の思うような影響を及ぼせているわけではありません。中国は2021年3月、台湾産のパイナップル禁輸を通達。「害虫対策」の名目でしたが、実際には蔡英文政権への揺さぶりではないかとみられました。 そこで台湾は日本に向けて、蔡英文自らSNSで「中国が台湾のパイナップルの輸入を禁じました! 日本の皆さん、台湾パイナップルを買ってください」とアピール。日本が大量に輸入したことで、中国の「エコノミック・ステイトクラフト」は失敗に終わりました。このように、中国の対台外交はむしろ台湾の対中警戒感を一層高め、さらには国際社会からの台湾への同情や支援を集める結果になるなど、逆効果になったともいえます。 ただし、中国側としては、一つひとつの威圧的アクションが短期的にうまくいかなかったとしても、国際社会に向けて「台湾でのビジネスは、安全保障上も、経済安全保障上もリスクが高い」と喧伝するという成果を得ているとはいえます。 リスク回避を念頭に、台湾との貿易や台湾への直接投資が減り、台湾産業経済が長期的に没落すれば、台湾社会が中国との経済関係深化を求めるだろうと計算しています。 実際に、2024年台湾総統選と同時に行われた立法院選挙では、民進党と相対的に比較すれば、中国との経済連携再深化を主張する国民党が第一党のポジションを得ました。