「『わかる人にだけわかればいい』は違う」――希代のトリックスターが基本に立ち返って開けた新しい世界
破天荒なスタイルで、見ている者をいつの間にか自分の世界に引きずり込むお笑い芸人、ハリウッドザコシショウ、通称ザコシ。不条理な芸を連発する一方で、賞レースの審査員では、理論派の一面も見せる。多様性が叫ばれる昨今、王道とは一線を画す彼の存在は、視聴者に鮮烈な印象を与える。芸人の新しいあり方を切り開いた彼のお笑い哲学に迫る。(取材・文:キンマサタカ/撮影:豊田哲也/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
嵐のような男
定番のスタイルは上半身裸に黒パンツ、そしてテンガロンハット。彼が登場すると、スタジオの空気は一変する。異分子の登場にスタジオは混乱に陥る。だが、出演者もMCもザコシの登場に悲鳴を上げながら大喜びしている。番組の流れをぶち壊した彼は、最後は礼儀正しくそっと去っていった。 「20年前からこんなスタイルでした」 静岡県の高校を卒業した18歳の青年が向かったのは大阪だった。 日本全国からお笑い芸人を目指す猛者が集まるよしもとのNSC大阪校で、高校の同級生と芸人人生をスタートした。当時からナンセンスなネタを連発する独自の芸風を貫いていたという。 「同期にはケンコバ(ケンドーコバヤシ)、陣内(智則)、中川家がいました。彼らは僕のことを面白いって言ってくれたし、自分も彼らに負けていないと思っていました」 実績がない若手にとって、同期が一目置いてくれることが心のよりどころであった。だが、気がつけば彼らとの差はどんどん開いていった。 「若手ライブは観客の評価でランク分けされるんですが、ケンコバたちは常に一番上。僕は気がついたら一番下まで落ちて、オーディションで入ってきた素人同然のやつらと争っていました」 低評価をつけられるたび、次こそ勝てばいいと思っていた。だが勝てなかった。当時はG★MENSというコンビで、テンションが高めのナンセンスなネタを連発していたが、まったくウケなかったと振り返る。 「今と同じスタイルかもしれないけど、完成度やアプローチがまったく違いましたね。芸の余白が多く、しっかりとしたフリがないから落ちない。ただただ、好きなことをやっていただけでした」