ぶどう山椒の生産量が日本一の町から生まれた「万能調味料」、肉料理や卵かけご飯など幅広い料理に
独特の香りや辛みを持つ山椒(さんしょう)に親しんでもらおうと、和歌山県有田川町の農家、篠畑雄介さん(32)が、山椒を使った万能調味料「後がけ 山薫るスパイス」を開発した。特産のぶどう山椒の生産量が日本一の町にも高齢化や後継者不足の波が押し寄せている。篠畑さんは課題解決のため、新商品の普及を目指す。(丹下巨樹) 山椒の木を確認する篠畑さん(和歌山県有田川町で)
篠畑さんは、父親の転勤に伴って5歳で有田川に引っ越した。専門学校に進学し、町を離れたが、県産品を販売する仕事に従事。町の山椒を見つめ直す機会を得た。「山椒は嫌いだったが、育った町に『日本一』があることを知った時はうれしかった」と振り返る。
ただし、ぶどう山椒の発祥の地として知られる町でも、山椒農家の高齢化が進み、生産者は減少。JAありだ清水営農センターによると、生産が盛んな清水地区の農家の平均年齢は2023年、約72歳。生産者も4年前より約30軒減り、約170軒となった。
篠畑さんは「文化が失われるのは、もったいない」と、5年前に町へ戻り、山椒農園で働いた。独立を考え、耕作放棄地を見つけては雑草、雑木を刈った。栽培方法の知識を深めるため、他の農園を飛び込みで訪ねたこともあった。
22年に「篠畑農園」を開業し、今年は約800本の山椒を栽培し、約100キロの乾燥山椒を出荷した。
だが、それだけでは、山椒は守れないと考えた。かつらぎ町のアウトドアショップの調味料「アウトドアスパイス ほりにし」が全国で人気を集めていることに注目。山椒に親しんでもらえるような調味料を開発しようとした。
スパイスの加工を手がける「カネカサンスパイス」(大阪市)と連携。試行錯誤の末、塩やニンニク、タマネギ、ショウガ、カルダモンを混ぜ、山椒の香りを引き立てる新商品を完成させた。肉料理や卵かけご飯など、幅広い料理に合うという。
クラウドファンディングで試験販売したところ、約2か月で約150人から約140万円が集まった。来年1月にも広く販売する予定だという。
篠畑さんは「たくさんの支援を受けられたことは、ありがたかった。新商品を通して、多くの人に山椒の魅力を伝えたい」と話す。