【ミャンマー】大手タイ企業の撤退続く 軍政が長期化、事業継続困難に
ミャンマーに進出した大手タイ企業の撤退や事業の一時停止が続いている。先月末には消費財大手オーソトサパーが子会社の売却を発表。7月にはポリ袋大手TPBIも現地法人の解散・清算を明らかにした。ミャンマーでは2021年2月に起きたクーデター以降、政情不安と経済の混乱が続いている。現状で状況が改善する兆しは見られず、今後も断続的に事業継続は困難と判断する企業が出てくるとみられる。 栄養ドリンク「M150」などを展開するタイの消費財大手のオーソトサパーは8月30日、ミャンマーで飲料用ボトルの製造と販売を手がける合弁会社2社を現地企業に売却することで合意した。タイ証券取引所(SET)への報告によると、出資比率35%のミャンマー・ゴールデン・イーグルと同51.84%のミャンマー・ゴールデン・グラスを地場マーラミャイン・パブリック・カンパニーに500億チャット(約22億円)で売却する。年内の取引完了を見込む。 オーソトサパーは子会社売却について「中核事業の強化と拡大に向けた事業再編計画の一環」と説明した。ミャンマーの飲料事業への影響はないとしている。 大手ポリ袋メーカーのTPBIは7月、子会社を通じて65%を出資するプラスチック包装材メーカー、TPBI&ミャンマー・スターを解散・清算すると発表した。ミャンマー国内の経済状況と事業展開する上での規制の不透明さを理由に挙げた。 素材最大手サイアム・セメント(SCG)のタマサック上席副社長はこのほど、タイ地元紙ネーションに対し、ミャンマー工場の拡張計画を過去2年、凍結していると明らかにした。混乱が続く同国で工場の一部機械が盗まれる被害を受けている。従業員にリスクが及ぶことを避けるため、操業停止中の工場では再稼働のめどが立っていない。 ■政変と制裁の影響大 ミャンマーとタイのビジネス促進を担うタイ・ミャンマー・ビジネス協議会(TMBC)のキッチ会長はNNAの取材に対し、タイ企業が撤退している背景について、政変とそれに伴う制裁による影響から、企業がキャッシュフローの悪化や外貨確保の困難に直面したと指摘。原材料や半製品、完成品の輸入といった海外とのやりとりがある企業や、事業を継続する資金が十分でない企業が撤退を余儀なくされたとの見方を示した。 タイ在住のアナリストは、外資企業全般に言える話とした上で、◇人権問題の深刻化・長期化◇提携先への制裁◇長期化する紛争の影響(戦闘区域で営業が困難。徴兵制による影響など)――を挙げた。インフレが進む中で賃金が上昇しているとも付け加えた。 大手タイ企業のミャンマー事業の停止は、特に昨年から顕在化し始めた。同年7月以降、ワコールと消費財大手サハグループの合弁会社タイワコール、自動車関連イベントを運営するグランプリ・インターナショナル、配電設備メーカーのSCIエレクトリック、コンクリートパイル・建材メーカーのゼネラル・エンジニアリングなどの上場企業が事業の一時停止や撤退を発表。新型コロナ禍や政情不安による事業環境の悪化、原材料調達や国際送金が困難になったことなどを理由に挙げている。 ■地産地消モデルで事業継続 撤退や事業停止が相次ぐ一方、ミャンマー事業を継続するタイ企業もある。同国の飲料最大手タイ・ビバレッジや消費財大手サハグループ傘下で「ママー」ブランドの即席麺などを製造・販売するタイ・プレジデント・フーズ(TFMAMA)などが事業を展開。タイ・ビバレッジは先月発表した23年10月~24年6月期の決算発表で、ミャンマーの蒸留酒事業が依然好調に推移していると明らかにした。 タイ在住アナリストは「現地で原料を調達し、販売する食品関連企業は外貨の影響を受けにくい」とし、生産と販売がかみ合っているとの見方を示した。 キッチ会長は「ミャンマーでのタイ製品への需要は衰えていない。タイの実業家はミャンマー事業で多くの実績と経験を持っている」と述べ、他国企業より優位性があるとの認識を示した。