「芸能人古着ビジネス」はなぜ撤退するのか 被災5年後の石巻で見た支援活動の終わり方
震災復興には長い時間がかかる。東日本大震災の津波で被害を受けた地域は、ガレキの片付けや仮設住宅の引っ越し支援など緊急度の高い支援の時期が過ぎ、被災地支援の在り方が変わりつつある。震災から5年、宮城県石巻市復興支援の活動を続けた2つの団体が活動を終える。舞台裏を追った。
そうそうたる有名人の名前が並ぶ古着通販サイト
歌手の今井美樹さん、浜崎あゆみさん、元サッカー選手の中田英寿さん、女優の中山美穂さん。計95名・グループ。そうそうたる有名人の名前がサイトに並ぶ。 一般社団法人パワクロは、芸能人から寄付を受けた古着をネット販売する事業を2012年12月から運営してきた。石巻に拠点を構え、地元で雇用機会が少ない課題に取り組むとして「power of closet ~服の力で被災地を支える~」をミッションに掲げた。女性向け下着通販メーカー「ピーチジョン」創業者の野口美佳さん、ジャーナリストの津田大介さんが発起人になっていた。 今年3月1日、代表理事の三上和仁(32)さんは「パワクロサービス終了のお知らせ」というメッセージを同法人のフェイスブックページに投稿した。 「著名人の私服をリユース」「ファンが喜んで購入」「被災地にお金が落ちる」という流れを「一石三鳥のサービスであり、非常に革新的な支援モデルでした」と悔やんだ。「被災地支援をしている団体は多数ありますが、自走している数少ない団体でもあります」ともつづり、古着を扱うビジネスモデルの難しさがあったことに触れたうえで、3月末での事業停止を告げていた。
きっかけはツイート
三上さんによると、事業のアイデアを思いついたのは芸能人の知人が多い野口さんだった。「芸能人はたくさん服を持っていて、安易に古着屋に売れないので捨ててしまう。売ればビジネスになるのでは。せっかくなので被災地の雇用につなげられないだろうか」。震災後、仙台市出身の野口さんが津田さんに相談して構想をあたためていた。 やがて三上さんが石巻に事務所を構え、事業をスタートさせることになる。「きっかけは津田大介さんのツイートでした」と三上さんは振り返る。 2012年6月、仙台市内でのイベントを知らせる津田さんのツイートが目に入って興味を持ち、足を運んだ。イベント後の飲み会の席で三上さんは津田さんと顔を合わせた。津田さんは野口さんから「担い手はいないか。できればウェブを作れる人がいい」と相談を受けていた。たまたま同市を訪れていた野口さんとの偶然の出会いも重なり、3人で語り合った。 三上さんは過去に作ったウェブサイトを二人に見せた。「このくらい作れる人を探していた」。実績を評価され、三上さんは二人から団体の代表になってくれないかと打診を受けた。 著名人からの突然の申し出。果たして自分がやれるのだろうかと悩んだ。 三上さんは石巻市から60キロほど離れた宮城県柴田町出身。仙台市内の大学へ進学後、東京のITコンサルタント会社へ就職した。その後は東京でフリーのウェブクリエイターとして、企業や団体のホームページ制作・管理の仕事をしていた。「いつかは宮城へ戻り、ITのことがわからない会社や組織に入って手伝いたい」という気持ちがあった。 かねてからの思いを実行に移すチャンスかもしれない。三上さんは津田さんと野口さんの申し出を受け入れることに決めた。津田さんと野口さんが知名度を活かして寄付を募ることになった。