「芸能人古着ビジネス」はなぜ撤退するのか 被災5年後の石巻で見た支援活動の終わり方
想定外だったファストファッションの割合
2012年12月に事業をスタートさせてみると、事前には把握しきれなかった仕入れの「質」と「量」の問題にぶつかった。 事前に想定していたのはブランド品や、品質が良くてほとんど着ていないもの。しかし、寄付で集まる古着の半分がファストファッションで高値で出せないのは計算外だった。 安価だが品質の良いファストファッションの登場によって、服を買う人のニーズに応えるため「ファストファッションをいかにきれいに着るか」が文化になりつつある。その流れが芸能界にも広がり、芸能人が着る私服でもファストファッションの占める割合が増えているのだろうか。三上さんはそんなふうに分析していた。 寄付に頼るため仕入れの量に波があることにも悩まされた。売り物になるかは検品してみないとわからないが、作業量が一定でなくても従業員は雇用し続けなければいけない。そもそも事業の計画段階と実数を比べると、仕入れ量の総数は10分の1ほどだった。見立てとの差に気づいた三上さんは、半年ほどで危機感を抱いたという。
GLAYのTERUさんとの新商品でテコ入れを図る
「パワクロが、今月末で終了してしまうという事で、ならば、皆さんにちゃんとお礼をしなければと思い、石巻に来ております」。今年3月11日、GLAYのTERUさんがインスタグラムに投稿したメッセージは7000件超の「いいね」を集めた。TERUさんはパワクロに最も協力してくれた著名人のひとりだった。 危機感を持った三上さんは、寄付された服のオークションサイトを考えたことがある。値段が釣り上がってファンに必要以上の負担をさせることへの懸念から実現に至らなかったが、TERUさんの私服を元にミサンガを作る「石巻ミサンガプロジェクト」が実現した。パワクロでは転売防止のためどの商品をどの芸能人が寄付したかを明かさないが原則。ただ、量産したミサンガについてはTERUさんの了承を得て明記した。 ミサンガの製作を石巻の手仕事団体「おだってばりぃで」と石巻で若者の自立支援を行う「石巻地域若者サポートステーション」に依頼。1本につき400円の対価を支払った。GLAY EXPOでのコラボもあり、販売本数は1万本超。パワクロ後半の屋台骨を支えた。 「大好きなアーティストのミサンガすごく嬉しかったです\(^o^)/大切に使わせて頂きます」「どうしても欲しいのですがもう申し込みはしてないんですか?」。いまもパワクロのフェイスブックページにはファンたちのコメントが並ぶ。 しかしTERUさんにミサンガの材料となる服を提供してもらうのにも限界はあった。「これもいつまで続けられるか分からない」と三上さんは考えていた。