ブルース・スプリングスティーンが語る「アメリカン・ドリーム」の定義、エルヴィス、マイケル、プリンスへの想い
エルヴィス、マイケル、プリンスを語る
―結婚しようと思ったことはありませんか? BS:いや、同棲していたことはある。でも20代前半は、誰かと一緒に暮らしたことなどなかった。 ―なぜでしょうか。 BS:さあ、理由は全くわからない。いつでも自由に動ける状態でいたかったんだと思う。今思えば馬鹿げているよな。あまり深く考えていなかった。最終的には、家族生活に充実感を見出すのだと思う。でも今のところ、俺の生活スタイルとは違う。 ―でもあなたの作品には人間関係をテーマにした曲が多くあります。あなたの母親は現在の状況をどう考えているでしょうか。 BS:祖母はイタリア系で、イタリア語と英語の両方を話したが、彼女からはよく「いつガールフレンドを連れて来るの? いつ結婚するの?」と言われていた。 ―一般的な恋愛関係を持つ可能性はあるのでしょうか。 BS:あると思うよ。過去には何人かと真剣に付き合っていたし。クラレンス・クレモンズ(バンドのサックス奏者)のクラブでも出会いがあった。でも今のところ結婚は考えていない。今は、自分の仕事が優先だ。いつの日か、結婚して家族を持ちたいとは思っている。 ―それまではどういう生活をするのでしょうか。ブルース・スプリングスティーンが一般の女の子をナンパする姿を想像しようとしているのですが。 BS:勝手に想像していればいいさ。バーやどこかへ出かけて行けば、出会いもある。心配するな。将来を見据えて、できるだけ普通の生活をしたい。外出中は自分が何者かとか、周囲の目などは気にしたくない。ほとんど意味の無いことだ。相手が有名人なら、誰でも一度か二度は付き合ってくれるかもしれない。でも相手が嫌な奴だとわかったら、離れていくだろう。面白味がないからな。そんな熱はすぐに冷めてしまうものさ。 ―孤立したり、エルヴィス・プレスリー症候群に陥りたくなかったということでしょうか。 BS:常に心がけているのは、一緒に育った人々とのつながりと、自分が生まれ育ったコミュニティの雰囲気を忘れないことだ。俺がニュージャージーに留まっている理由は、そこにある。有名になっても、次の瞬間には忘れられたり、他の対象へと心変わりされてしまう危険性がある。そんな有名人は山程見てきた。エルヴィスの場合は、本当に大変だったに違いない。レコードが100万枚売れるのと300万枚売れるアーティストとでは、明らかな違いがある。俺もそれを普段から肌で感じる。かつてはエルヴィスが、そして今ではマイケル・ジャクソンが経験した、名声に伴うプレッシャーと疎外感は、本当に苦痛だったはずだ。だから俺の場合は、店やバーには近寄らなかったし、外出もしないようにしていた。俺は従来の生活パターンを極力変えないようにしている。クラブへ入っていくと、客が大騒ぎすることなく、愛想よく出迎えてくれる。そして俺はステージへ上がってプレイする。それだけさ。 リアルなオーディエンスを前にステージに立ち続けられる限り、ロックンロール・バンドとしての人生は続くだろう。ファンからの最大の贈り物は、自分を一人の人間として扱ってくれることだ。有名人を取り巻くそれ以外のものは全て、自分の人間性を奪ってしまう。極端な疎外感が、肉体面にもクリエイティビティの面でも、最高のロックンロール・スターたちの寿命を縮めてきた。有名になることで自分のファンから引き離されねばならないとしたら、あまりにも高すぎる代償だ。 ―マイケル・ジャクソンの現状を直接目にする機会があったと思います。ザ・ジャクソンズのコンサート後に彼と会いましたか? BS:フィラデルフィアで彼らのコンサートを観た。本当に素晴らしいショーだった。俺のステージとは全く違うが、あの夜は本当に感動した。マイケルは、文字通り並外れている。彼は本当に気さくなジェントルマンだ。それにほとんどの人は気づいていないだろうが、意外と背が高い。 ―最近では他にどんなバンドを聴きますか? BS:いろいろなバンドを聴いている。U2、ディヴァイナルズ、ヴァン・モリソン、それからスーサイドもいいね。 ―なるほど。『ネブラスカ』収録の「State Trooper」は、スーサイドっぽい曲調ですね。 BS:彼らはシンセサイザーとボーカルという2ピース・バンドだ。俺が聴いた中でも特にユニークな曲があった。確か殺人者の……。 ―「Frankie Teardrop」ですね。 BS:そう、それだ。衝撃的だった。今のお気に入りだ。 ―プリンスはどうでしょう。彼のステージを生で観たことはありますか? BS:それこそ信じられないステージだった。俺がこれまで観た中でも、彼は最高のライブ・パフォーマーだ。多くのユーモアが散りばめられたユニークなステージだった。ステージ下からベッドが上がって来たりして、素晴らしい演出だ。プリンスとスティーヴ(・ヴァン・ザント)のステージ・パフォーマンスが、今のお気に入りさ。 ―映画『パープル・レイン』は鑑賞しましたか? BS:いい映画だった。エルヴィスの初期の傑作映画のようだ。 ―あなたが彼の邸宅「グレイスランド」の塀を乗り越えて、エルヴィスに会おうとしたという話もあります。その試みは失敗しましたが、かつて憧れの存在だったアーティストのほとんどと実際に会ったのではないでしょうか。 BS:自分が憧れていた人と会うのは、複雑な心境だ。「アーティストではなく、作品の方を評価しろ」と言うが、一理あると思う。素晴らしい作品を生む人間が、いろいろな意味で愚か者だったりする。俺の音楽も、俺という人間よりも優れていると思う。自分の音楽作品には自分の理想を描いているかもしれないが、実際の人生がその理想に沿っているとは限らない。理想に向かって頑張ってみるものの、目標に届かずがっかりするのが落ちだ。俺の憧れのミュージシャンたちに関しても、チャンスがあれば会ってみたい。でも俺はあくまでも彼らの音楽が好きだというのが第一だから、どうしても直接会いたいという訳ではない。エルヴィスと直接会った人たちは口々に、彼の人間性に失望したと証言している。それが正しい見方かどうか、俺にはわからない。でも、彼の素晴らしい作品に失望した人間はいないと思う。彼は、自分に備わり、自分が得られる最高のものを人々に提供したと思う。一般人にはとてもできない芸当だ。 ―少なくともあなたは、エルヴィスが抱えたような薬物問題に陥ることはなさそうです。ロックンロールの世界に20年もいて、マリファナ一本も吸ったことがないというのは本当ですか? BS:どんな種類のドラッグにも手を出したことがない。ドラッグが流行っていた頃は、あまり盛り場に出入りしていなかった。当時は部屋に籠もってギターの練習をしていた。今の子どもたちが抱えるようなプレッシャーもなかったしな。当時はとにかく自制していた。今は、外で少しは飲むよ。ただしツアー中は、飲み過ぎないように注意している。ステージは体力的にきついから、万全の準備が必要だ。