ドラマを象徴する意外な人物のセリフとは? 日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』の玲央のオチが秀逸だったワケ。最終話考察
すべてを知ったいづみ(宮本信子)が再び長崎へ
鹿乃子(美保純)や数馬(尾美としのり)とは会社の方針を巡ってぶつかることもあったが、2人とも真実を知ったいづみのやり切れなさに思いを馳せてくれる根は優しい子たちだ。玲央とともに鉄平の現在の手がかりを探ってくれている孫の星也(豆原一成)や千景(片岡凜)にも会えた。結果論かもしれないが、それはリナと進平の選択がもたらしてくれたもの。 その裏で、朝子の幸せを守り続けた人間もいる。リナは島を出た後、誠とともにハル(中嶋朋子)の実家へ移り住み、3人で暮らし始めた。だが、鉄平は長崎警察に相談するも相手にされず、以降も長きに渡ってヤクザに追われることとなる。 そのため、1つの場所には定住せず、全国各地を転々としていた鉄平。当初は朝子に「待っていてほしい」と手紙を出そうとしていたが、自分といれば、不安定な生活を強いることになる上に危険な目に遭わせる可能性もあったため、破り捨てた。 もう会えない朝子の幸せを願いながら、その間もプロポーズの時に渡そうとしていたギヤマンの花瓶を後生大事にしていた鉄平を思うと胸が苦しい。 鉄平自身が秘密を貫くために一部を切り取り、黒く塗り潰した日記が賢将の手から息子の孝明(滝藤賢一)へ、そしていづみの手に渡って誤解が解けたことはせめてもの救いだ。すべてを知ったいづみは再び玲央とともに長崎を訪れ、端島に上陸する。 ギヤマンの花瓶は、鉄平が朝子と暮らすはずだった集合住宅の上階にそっと置かれていた。いづみはそれを手にすることはおろか、一目見ることも叶わなかったけれど、代わりに鉄平が遺した別の“ダイヤモンド”に出会う。
いずれは誰かの人生を輝かせるダイヤモンドへ…。
鉄平は各地を転々としたのち、長崎に一軒家を購入し、ボランティアとして老人の話し相手をしたり、一緒に花札をしたりしていたという。その家は鉄平の死後、長崎市に寄贈され、現在は町の人の憩いの場となっていた。いづみが庭に出ると、そこには端島を臨むコスモス畑が…。 朝子と結婚した暁には、集合住宅でギヤマンの花瓶に季節ごとの花を飾って、ともに愛でながら歳を重ねていく。おそらく鉄平が思い描いていたであろう幸せは叶わなかった。 それは、この3ヶ月間、2人を見守ってきて他人とは思えなくなった私たち視聴者にとっても悲しいこと。だけど、この庭で端島で暮らした日々に思いを馳せ、朝子が好きだったコスモスが咲くたびにその幸せを祈りながら、外勤だった頃のように人の世話を焼く毎日も鉄平は楽しんでいたのではないだろうか。そう思いたい。 楽しい思い出も、悲しい記憶も、罪も愛も、植物の死骸が長い年月をかけて石炭となるように、いずれは光り輝くダイヤモンドとなって誰かの人生を輝かせる。 それに気づいた時、安心して生きていける気がした。いづみのように、「気張って生きたわよ」 とかつての自分に胸を張って言える日まで。 過去の映像を見返したら、鉄平と玲央が全然似ていなかったというオチも良かった。いづみが玲央と出会った時に他人とは思えず、つい声をかけてしまった、その感覚こそが大事なのだと。 ツアーガイドの仕事に就き、知らない土地を回る玲央は「もしかしたら、ここにも鉄平がきてたのかもしれない。そしたら誰も他人に思えなくてさ。もしかしたら、鉄平が声をかけた人かもしれないし、その子供かもしれないし、孫かもしれない」といづみに語る。 一島一家、隣人愛。その精神が息づく、暖かな作品だった。 【著者プロフィール:苫とり子】 1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
苫とり子
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