事故死で教室の「スピーカーに転生」した主人公を描く『死んだ山田と教室』など…黒歴史と向き合う小説6作を紹介(レビュー)
書評家の大矢博子が紹介。己の弱い部分と向き合い、心を強くする6冊作。 *** シリーズものを紹介するときには気をつけなくてはならない。最初の一冊を読んで「なるほど」と思ったことが後で覆されることが往々にしてあるからだ。 以前、あるシリーズの最初の巻にとても魅力的な登場人物がいて、「この人がいい、今後もきっと主人公の力になってくれるに違いない、この人の活躍をもっと読みたい!」と熱く語ったら、あとの巻でその人物が全ての黒幕だったことが判明したことがある。著者の企みに見事にひっかかってしまったわけだが、あのときはもう、前に書いた書評をすべて消してまわりたい思いをした。黒歴史である。 それと同じ経験をまたまた味わってしまった。米澤穂信『冬期限定ボンボンショコラ事件』(創元推理文庫)だ。 推理好きの小鳩くんと復讐心の強い小佐内さん。ふたりは高校ではその本性を抑え、目立たず騒がずごくごく平凡な小市民になることを決意していた。しかし出会った事件でそれぞれ真価を発揮してしまうことが度々……という学園ミステリのシリーズだ。
これまで『春期限定いちごタルト事件』『夏期限定トロピカルパフェ事件』『秋期限定栗きんとん事件』の長編三作と短編集『巴里マカロンの謎』が刊行されている。 今回は受験も近い三年生の年末、下校途中の堤防道路で小鳩くんが轢き逃げに遭う場面から始まる。一緒にいた小佐内さんは助かったものの、小鳩くんは重傷で二ヶ月の入院を余儀なくされた。枕元に届いた小佐内さんからのメッセージを見るに、どうやら彼女は犯人探しをしているらしい。だが小鳩くんにはもうひとつ気になることがあった。今回の轢き逃げが、彼が中学時代に出会ったある事件を想起させたのだ──。 病院のベッドから動けない小鳩くんが推理する今の事件と、中学時代に起きた事件が並行して語られる。飄々としてユーモラスな語り口の中に時折潜む苦味。青春ミステリのきらめきと切なさの背後にあるシビアな現実。そういったシリーズの醍醐味がたっぷり詰まった、まさにシリーズの集大成と言っていい。 実は第一作が出たとき「小市民になりたい」というふたりに対してちょっと斜めに見ていたのだ。十五歳かそこらで「平凡になりたい」と考えることはすなわち、自分は平凡ではない、特別な存在だと考えていることになる。若いときにはままあることとはいえ、こりゃまた随分傲慢な子たちだなあと。 それが第二作以降、まさに自らの傲慢さを自覚する展開もあり、なるほどこれがやりたかったのか、第一作での評価は拙速だったなと反省した。しかしこの長編第四作でなぜ小鳩くんたちが小市民を目指したのかの原因が語られるに至り、過去の自分の評価が決定的に的外れだったことに気付かされたのである。なるほどこういうことか。これは傲慢な子どもの話ではない。自分の選ぶべき道に迷い、傷つき、足掻く若者の物語だったのだ。 こういうことがあるからシリーズものは怖い。本書は小鳩くんが自分の黒歴史に向き合う話だが、私にもまた黒歴史が増えてしまったではないか。 ということで今回は「黒歴史に向き合う物語」を紹介しよう。