事故死で教室の「スピーカーに転生」した主人公を描く『死んだ山田と教室』など…黒歴史と向き合う小説6作を紹介(レビュー)
今月の収穫は何と言っても金子玲介『死んだ山田と教室』(講談社)に尽きる。他のところでも紹介してしまったので簡単に済ませるが、交通事故で死んだクラスメートが教室のスピーカーに転生するという話だ。転生モノは多々あるがスピーカーって! ところがこれが面白い。まずはスピーカーになった山田とクラスの仲間たちの会話が、テンポのいいコントのようで何度も声を出して笑った。しかし後半、色合いが変わる。山田がスピーカーになったがゆえに避けられない出来事が彼を襲うのだ。他者から明かされた山田の過去。クラスメートの本音と心境の変化。前半がめちゃくちゃ楽しくて笑えた分、後半の落差がたまらない。 動けないからこそ黒歴史に向き合わねばならない山田と、自分の選択を黒歴史にしたくないあるクラスメートの行動が重なる終盤は圧巻だ。
──とまあ、ここまで簡単に黒歴史という言葉を使ってきたが、そんな安易な言葉では語れない歴史もある。天袮涼『あなたの大事な人に殺人の過去があったらどうしますか』(角川春樹事務所)は、タイトル通り殺人という前科を抱えた人物の物語だ。ていうかタイトルですべてを表現してくれているので何も付け加えることがないじゃないか。 食品卸の会社に入った藤沢彩は、無口で無骨だが実は親切な先輩社員、田中心葉と親しくなる。心葉に次第に惹かれる彩。しかしある日の朝礼で、心葉は衝撃の発言をする。彼には人を殺した過去があるというのだ。十年前、中学生の時に人を殴って死なせ、少年院に入っていた、と。動揺する彩と同僚たち。彩はこれまで通りに心葉と付き合えるのか。何より、なぜ心葉は突然そんな告白をしたのか? 彼の告白の影響はそれだけではなかった。実は心葉や彩と親しいもうひとりの同僚は、殺人事件の被害者遺族だったのである。加害者の思い、被害者遺族の思い、その両方と親しい者の思い。三者三様の思いが交差した果ての真実は──。 それぞれの立場で思いが綴られるので、感情移入先がどんどん変わってひたすら翻弄されてしまった。三人の気持ちがわかるからこそ安易に何かを断定することができない。中でも印象に残ったのが、人を殺すに至った中学生の心葉がやたらと「死ね」という言葉を発していた理由だ。こういうものの見方があるのかと蒙を啓かれるとともに、表面に見えることだけで何かを決めつける愚かさを改めて突きつけられた。