吉田正尚 メン・オブ・ザ・イヤー・ベスト・ベースボール・プレイヤー賞──フルスイングの侍は、メジャーでも“頂”を目指す
吉田正尚は「ベスト・ベースボール・プレイヤー賞」を受賞。WBCでは、準決勝で同点3ランを放つなど、大会新となる13打点を記録して優勝に貢献した。 【写真を見る】フルスイングの侍戦士、ファッションに挑む!
吉田正尚はスタジオに入った途端、一瞥を放った。彼がバッターボックスからマウンドに向かって投げかけるような、鋭利で冴え冴えとした視線だった。あたかもグラウンドにいるような錯覚……私たちは相手ピッチャーというわけだが、吉田の眼光に射すくめられ全員が身じろぎひとつできない。 だが次の瞬間、吉田はごく自然に目元を緩めてみせた。寒色に光った瞳がたちまち暖色を帯び始める。ニコッと真っ白な歯を覗かせた時には、どこからとも誰からとも知れず、ホッとした安堵の嘆息が漏れた。 一方の吉田は何事もなかったかのように、リラックスした表情のままカメラの前に立つ。 「どうぞ、お好きなように料理してください」 勝負あった──現役メジャーリーガーはスタジオにも快音を響かせてみせた。2023年4月3日、本拠地フェンウェイパークのレフトスタンドにそびえるグリーンモンスター越えの、初ホームランのように。 撮影終了後、改めて吉田と向き合った。肉体の充実ぶりは着衣のままでも見て取れる。盛りあがった胸板、太い腕、がっしりとした大腿。背中をみっしりと筋肉が覆い、臀部のたくましさは度外れた膂力を裏打ちしている。 吉田は先に手を差し出してくれた。その手は分厚いものの意外なほど柔らかく、温かい。 吉田は問わず語りになった。 「メジャーに行く以上はどのチームでも応じるつもりでいました。よく、日本人には西海岸の日系人が多い都市が向いている、と言いますけれど、それも意識していません。僕を必要としてくれるのなら、28都市30球団のどこでもかまわなかったんです」 移籍先に関しては誰にも相談しなかったし、チームのことを調べもしなかったという。 「去年のオフに(鈴木)誠也と食事をした時にもメジャーの話題を出さなかったくらいです。完全に代理人に一任していました」 もちろん自分の処遇に関心がなかったり、ましてや捨て鉢になっていたわけではない。最初から、望まれた場所で花を咲かせる決意でいた。 「オリックスに指名された時も一緒です。12球団どこから声がかかっても、そのチームで僕なりの最大の成果をあげるつもりでした」 吉田はひと呼吸おいてから続けた。 「人生の転機ってタイミングの問題ではないでしょうか。僕は高卒でプロ入りしたかったけれど、それは叶わなかった。でも、あの時に指名されても結果を残せたかどうか。やっぱり大学で鍛え直す期間が必要だったんだと思います」 青山学院大学時代の収穫は、学生日本代表の主軸を担ったことだけではない。 「野球やトレーニングはもちろん、学生生活や人間関係の面で視野が広がりました。これは大きなプラス。大学進学は遠回りじゃなかった。選手として人間として成長できたタイミングでオリックスに1位指名してもらえました」 オリックスでは7年間プレイして日本一の栄冠に輝き、2度の首位打者、5回のベストナインを獲得。満を持してのメジャー挑戦だった。 「30歳までにメジャーに行きたいと考えていたんです。そのタイミングが来た時、オリックスもポスティングに応じてくれました」 ボンバージャケット ¥928,400、シャツ ¥110,000、パンツ ¥94,600、シューズ ¥107,800 by MARNI(マルニ ジャパン クライアントサービス)ソックス スタイリスト私物