吉田正尚 メン・オブ・ザ・イヤー・ベスト・ベースボール・プレイヤー賞──フルスイングの侍は、メジャーでも“頂”を目指す
今季の成績に関しては「60点」と辛口の自己採点をしてみせた。ちなみに打率.289、155安打、15本塁打、72打点でOPSは.783だった。 「メジャーでのシーズンはアッという間でした。何もかもが初めてずくめでしたから、余計に時間の経過が早く感じられたのでしょう。それでも140試合を故障せずに終えることができた、という点はよかったと思います。ただチームが最下位というのは……。来シーズンは打、走、守の全てをアップさせ、優勝に貢献したい」 具体的には? と水を向けると、吉田の眉がピクリと動いた。 「打率は3割をキープするだけでなく、もっとホームランが打てるし、フォアボールを選ぶことができることもアピールしたい。打席に立つと何かしら事を起こす選手、ピッチャーにとっては攻めづらいバッターでありたいですね」 吉田は例の鋭い目つきになっていった。 「僕の好きな言葉は“頂”──少年野球時代から、常に頂上を目指してやってきました。黙って待っていても頂上は極められない。日々ベストを尽くすしかないのです。途中で崖から落ちることもあるかもしれません。それでも僕は再び立ち上がって歩き出す。そういう決意で野球に取り組んでいます」 当然、メジャーリーグでも天辺を目指している。吉田は身を乗り出した。 「世界最高レベルの野球をするための人材が集まっています。ラテン系の選手は15歳くらいから、家族を養うためにアメリカでチャレンジしていますが、そんな彼らに負けないためにも、僕は個人とチームの“頂”を強く意識して、数字と結果を残さなければいけません」
一気に一途な想いを吐露した後、彼はひと呼吸置いてから付け加えた。 「僕はひどく物事にこだわる性格なんです。一度決めたことを安易に変えたくはない。自分が納得しなければ、他人の意見を取入れたりしません。それに他人と被るのが嫌だし、人と違うことをやりたい」 吉田自身による、いかにも吉田らしい、吉田正尚像ではないか。そういえば、大学時代から吉田と接していた人物が、取材前に教えてくれたことを思い出した。 「人前でバカをやるキャラじゃなく、いつも冷静、しかもマイペースな男です。自分の想いをプレイや行動で伝えていくタイプです」 吉田は取材中、確かに一度も口ごもったり長考したりしなかった。声はさほど大きくないが、歯切れよく即答してくれる。しかも、その内容は無駄や手抜かりとは縁遠い。おまけに、こちらを正視して目を逸らさない。取材の場はずっと静謐な緊張感に支配されていた。 別れ際、日本でのオフタイムで一番愉しみにしていることを尋ねてみた。 「故郷の福井で温泉に入ったり、少年野球の鯖江ボーイズ時代の旧友とバカ話に花を咲かせたりしたいですね。彼らに言わせたら、僕って子どもの頃から全然変わっていないそうです」 ふっと浮かんだ屈託のない微笑。そこに、私たちの知らない吉田が重なったような気がした。