9億円の潜水機は忽然と消えた…、「エンデュアランス号発見」の知られざる舞台裏
100年以上前に深海に沈んだ英国の南極探検船、大発見のチャンスは消えたかに思われたが――
ウェッデル海の氷の下を探査するのは費用や技術の面でハードルが高く、エンデュアランス号の捜索は実現が難しい夢だった。それが変わったのは2018年。オランダの海洋環境保護団体フロティラ財団が、エンデュアランス号発見を目指す初の捜索プロジェクトへの資金提供を発表したのだ。 ギャラリー:ついに発見、南極探検船エンデュアランス号 写真12点 遠征隊長には英国南極研究所に25年間勤めてきたジョン・シアーズ、探査責任者には英オックスフォード大学の著名な海洋考古学者であるメンスン・バウンドが任命され、プロジェクトは19年初頭に始まることになった。 出だしは順調だった。エンデュアランス号が沈んでいると推測していた範囲内には、11本の測線が設定してあり、そのうち7本の捜索を終えることができた。しかしそこで、600万ドル(約9億円)の自律型無人潜水機フギン6000が忽然と消えた。これで貴重なデータだけでなく、発見のチャンスさえも失われた。
”F1カー”ではなく”四輪駆動車”が必要だった
2020年8月、フォークランド諸島の元総督で、当時フォークランド海洋遺産財団(同島と近隣海域の歴史保存に取り組む英国の団体)の理事長だったドナルド・ラモントから、シアーズに電話がかかってきた。驚いたことに、同財団がエンデュアランス号捜索の再挑戦に資金を提供できるという。 シアーズとバウンドは、捜索方法を変える必要があると考えていた。そこで財団は、遠征隊の副隊長と海中作業責任者として、ニコ・バンサンを任命した。 バンサンは遠征隊への参加を要請されると、自分のチームの仲間とともに2019年の捜索の詳細な報告書を読み込んだ。そこで得た重要な結論の一つは、違う無人潜水機を使うべきだったというものだ。 フギン6000は世界で最も高性能な潜水機だとバンサンは言うが、氷の海のような極限環境向きではなかった。「雪や氷に覆われた山の頂上に車で向かおうと思ったら、F1カーには乗りませんよね。4輪駆動車を使います」 2回目の捜索には、スウェーデンのサーブ社が開発した無人潜水機セイバートゥースが2台投入された。