欧州勢躍進の波に飲まれ女子W杯16強敗退のなでしこJが突きつけられた課題とは?
至高のハーモニーが奏でられたのが、前半43分に決まった長谷川の同点弾が生まれるまでのパスワークとなる。左サイドに開いたボランチ杉田妃和(22)=INAC神戸レオネッサ=がドリブルで切り込みながら、相手ゴール前に陣取るFW菅澤優衣香(28)=浦和レッズレディース=へパスを通す。 菅澤へ近づきパスを呼び込んだ岩渕へ、体格で勝るオランダの選手が猛然と間合いを詰めてくる。菅澤が落としたパスをトラップしようかという瞬間、岩渕はボールをまたいで相手を軽やかにかわしボールをキープしながら、オフサイドポジションにいた長谷川が戻る時間も作る。 そして、体勢を整えて再び相手ゴール前へ飛び出した長谷川へ、相手ゴールキーパーも飛び出せないタイミングで絶妙のスルーパスを通した。岩渕のアイデアや意外性、状況判断力が凝縮された一連のプレーに周囲が呼応した流れが、今大会における成長の跡だと前出の鈴木氏は指摘する。 「前々回大会、前回大会を戦った選手たちに聞けば、岩渕は茶目っ気たっぷりの甘えん坊だったという声が返ってくる。その岩渕がプレー面だけでなく人間的にも成長して、頼もしさも発揮しながら、世代交代が進むなでしこの中心選手になれることが今大会で証明された。 もちろん、美しいだけでは勝てない、という声があることも理解している。それでもイングランド戦の後半を含めて、パワーやスピードで上回られる相手をコンビネーションやパスワークで完全に圧倒した。間違いなくこのチームが目指していく方向性と、大きな可能性を示した90分間になる」 ただ、負けたら終わり、という一戦で勝ち切れなかった事実も残る。後半だけで5度の決定機を作りながらゴールを奪えなかった展開も、最後になって響いた。来夏の東京五輪へ、日本が開催国として立候補している2023年の次回ワールドカップへ、敗退とともに課題も突きつけられた。 ゴールが必要な展開で、高倉麻子監督(51)は交代枠をひとつ残した状態で試合終了を告げるホイッスルを聞いた。出場機会を得られなかったFW横山久美(25)=AC長野パルセイロ・レディース=を含めて、FW陣には所属クラブに戻ってからの奮起が必要だと鈴木氏は続ける。 「菅澤を非難するつもりはないけれども、瞬間的な動きの鋭さで物足りなさを感じるし、もうちょっとコースを抑えたシュートを打つためにトレーニングを積む余地がある。高倉監督としても何か手を打ちたい展開で、横山を使わなかった。そこは選手個人が反省しなければいけない」 短期的な課題として、FW陣の切磋琢磨が求められる。今大会に招集された宝田沙織(19)=セレッソ大阪レディース=や小林里歌子(21)だけでなく、なでしこリーグで3年連続得点王に輝きながら選外となった田中美南(25)=共に日テレ・ベレーザ=らが、お互いを高め合っていくしかない。