重症花粉症にも高い効果期待―抗体医薬の特徴と投与までの道筋
憂鬱(ゆううつ)なスギ花粉症の季節が間もなくやって来る。花粉症治療に携わる医師などは「花粉飛散が始まる2月上旬ごろから服薬を開始することで、本格的なシーズンの症状が和らぐことが期待できる」と早期の治療開始を呼びかけている。ただ、従来の薬では十分な効果が得られず「春先の3カ月ほどは仕事の生産性が落ちる」という重症患者も一定数いる。そうした重症花粉症の患者でも高い効果が期待できる抗体医薬が、2019年から使えるようになった。その作用や対象患者などについて、イーヘルスクリニック新宿院(東京都新宿区)の天野方一院長に聞いた。
◇使えるのは「重症」以上の患者限定
「私は十数社で産業医もしていて、働く人を応援したいという気持ちを持っています。花粉症で仕事の生産性が落ちるなら、我慢せずに医療を使えば楽になり、仕事のパフォーマンスを上げられる可能性があることを多くの方に知ってもらいたいと思っています」と天野氏は強調する。 花粉症の薬は大きく分けて3つある。1つは、多くの人が使っている抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬など従来の対症療法の薬。もう1つは、舌下免疫療法の薬。そしてもう1つが、2019年からスギ花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)の治療薬としても承認された抗体医薬だ。 対症療法の薬は人によっては効果が限定的で、重症の花粉症では服薬してもくしゃみや鼻水、鼻づまり、目のかゆみなどから解放されないこともある。舌下免疫療法の薬は長期間の投与で“根治”を目指すものだが、花粉症の季節には使うことができない。 これらに対して、抗体医薬はより強力に花粉症の症状を抑え込むことが期待できる薬だ。日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会がまとめた「鼻アレルギー診療ガイドライン2023年版」では、抗体医薬のオマリズマブ(抗IgE抗体製剤)について「抗ヒスタミン薬と鼻噴霧ステロイド薬の併用でも症状の残る患者に対して、鼻汁、鼻閉、流涙、眼のかゆみ、鼻の症状、眼の症状スコア、生活の質を改善する。……臨床試験での労働生産性及び生活障害のアンケートの結果より、重症以上のスギ花粉症患者の労働生産性の損失をほぼ1/3に減少させ、労働活動に関して実質的な利益をもたらす可能性があることが判明した」として、エビデンスの強さAで「実施することを強く推奨する」とされている。 イーヘルスクリニック新宿院でオマリズマブを投与した患者20人に「治療開始前の症状を10とした接種後の症状改善度」を尋ねたところ、11人が「2以下」と回答。改善度が半分に達しないとしたのは2人だけだった(グラフ参照)。 ただし、この薬は誰でも使えるわけではない。「重症または最重症*の季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)で前シーズンでも重症な症状があった」「スギ花粉のアレルギー検査の結果が陽性だった」ことが保険適用の条件となっている。 *アレルギー性鼻炎症状の重症度分類で「重症以上」は、1日の平均くしゃみ発作または鼻をかむ回数が11回以上、もしくは鼻閉(鼻づまり)の程度が「1日中完全につまっている」あるいは「鼻閉が非常に強く口呼吸が1日のうちかなりの時間ある」とされる(鼻アレルギー診療ガイドライン2023年版より)。