「無実の人でも有罪になるリスクはある」冤罪を研究する弁護士が語る犯罪捜査の危険性とは
もしも冤罪に巻き込まれたら
――冤罪については、そもそも一般の方がその当事者になり得る可能性も否定できません。もしも、一般市民がいきなり捜査機関からぬれぎぬを着せられ、逮捕されてしまったら、どんな心構えでいることが最善といえるのでしょうか。 西弁護士: まず、捜査機関に疑われた時点ですぐに弁護士に相談してください。法律知識がない状態で取調べを受けた場合、そもそもなにが問題になっているか分からないため、思わぬ誤解を生むおそれがあります。 また、記憶や表現も曖昧な状態で取調べにのぞみ、誤解を招く供述をしてしまうリスクもあります。 たとえば「3日前に何をしていたか」と聞かれても、私たちは何を食べたかすら思い出せないということが往々にしてあると思います。曖昧な記憶で述べたことが実際には別の日のことだった場合、取調官からは「この人は嘘をついている」という目で見られるきっかけになり、より疑いを深めてしまうかもしれません。 自身のアリバイを正しく述べたとしても、捜査機関は主に犯人の検挙を目的として捜査していますし、それを否定する証拠を集めて「アリバイ潰し」がされた冤罪事件もあります。 加えて、「話せばわかってもらえる」と黙秘せずに一生懸命供述して、そこから虚偽自白に転落してしまったという冤罪事件も数多く存在します。 こうした過去の冤罪事件の教訓からは、「そもそも取調べで話したほうがいいのかどうか」といったところから慎重な検討が必要になります。取調べで話したほうがいいかどうかは事案によって様々であり、弁護士の専門的な判断が必要になります。そのため、弁護士が「話したほうがいい」と言うまでは、基本的に黙秘することを助言しています。 黙秘権は憲法上の権利であってやましいことではありませんし、真実を守るためにも黙秘することが重要です。 ――少し具体的に、たとえば痴漢の犯人を疑われた場合、どう対応すればいいのでしょうか。 西弁護士: 満員電車の状況は痴漢冤罪のリスクと隣り合わせといえます。確かに意図せずとも他人の体にあたってしまう可能性はありますが、誤解を招く他人との接触を極力減らすのは一種のエチケットでもあります。 たとえば吊革につかまる、スマホを持つなどして両手をふさいでおくなど、日ごろから疑われる余地をなくしておくことが肝要です。 そのうえで、もしも痴漢冤罪に間違われてしまったら、重要なことは次の2つです。 (1)有罪であるかのような振る舞いをしない (2)防御のための行動をとる (1)は面倒なことを避けようと、無理やりその場から逃げるなどです。しばしばあることですが、逃げるためにホームから線路に下りれば、鉄道会社の業務を妨げたとして威力業務妨害罪が成立するおそれがあります。加えて、「やましいから逃げた」と思われてしまうリスクもあるでしょう。 また、罪を犯していないのにいさかいを恐れ、「痴漢をした」と認めて交渉しようとしたり、記憶がないのに「あたったかもしれない」などと発言したりすることも、その後の裁判において有罪の「状況証拠」と扱われる可能性があります。 (2)は先に述べた通り、取調べに対して「黙秘」することのほか、容疑を晴らすための目撃証人を確保することなどが重要です。必ずしも証拠が残るわけではありませんが、疑われた際にできることとして、自身の手に被害者の衣服の繊維片がついてないことなどを捜査機関に調べてもらう必要があります。