「障害者スポーツは福祉ではない。競技だ」カンパラプレス・越智貴雄代表
インターネットが一般に普及し始めてから約20年が経ちます。キュレーションやブログ、SNSなど「流通」のテクノロジーが劇的に進化し、これに呼応するように新興企業や個人など「生産」を担うメディアの数も激増しました。ネットのテクノロジーの恩恵を誰もが普通に受けられるようになった現在、生産サイドのメディアはどのように進化しようとしているのでしょうか? パラリンピックをはじめ、障害者スポーツを専門に取材する一般社団法人「カンパラプレス」のカメラマンで代表理事の越智貴雄さんに話をうかがいました。 -------
障害のある人にカメラを向けていいのか?
1999年、大学は写真学科で、報道ゼミを専攻していました。先生が新聞社の方で、ゼミのたびに「オリンピックは世の中を変える力がある」というような話をいつもされていました。気になりすぎて、翌年のシドニーオリンピックのために、1年間休学したんです。渡航費をためて、留学しながらオリンピックの取材をしました。新聞社や雑誌社に「こんな写真撮りました」と持ち込んでいたら、運良く新聞社から依頼を受けることができ、オリンピックの取材に携わることができました。 帰国準備をしていたときに、ある新聞社からパラリンピックの取材をしてみないかと言われたんです。仕事の依頼していただけたことが嬉しくて、帰国を延長してお引き受けしたんです。しかし、しだいに不安になっていきました。パラリンピックという言葉のイメージは「障害者」、「障害者は可哀想な人」とそのときは思っていたんです。「支援が必要な人」くらいに思っていたんです。障害のある人にカメラを向けていいのかなと。 しかし、開会式の入場行進で、車椅子の人も義足の人も視覚に障害のある人もみんな笑顔だった。それにまず驚いたんです。それを見て僕のなかでも壁がぱっと消えました。両足を切断した選手が、片手で逆立ちをしながら、もう片方で手を振っている選手もいました。義足の選手が100メートルを10秒台で走り抜けていきますし、車椅子バスケットでは、片輪でシュートするシーンをみたり、膝より上を切断した選手が、けんけんしながらベリーロールで1メートル80センチを跳んだりする。「こんなこと人間にできるの?」と驚きました。 「知らないこと知ること」で、僕のなかの世界が大きく変わりました。パラリンピックを知らなければ、いまだにパラリンピックは障害のある人の大会だという認識しかなかったと思うんです。「知らないこと知ることで世界が変わる」。これを伝えたいのです。