『アラクノフォビア』に『スパイダー パニック!』『スパイダー/増殖』などなど!巨大化に増殖、猛毒に戦慄するクモ映画集めました
猛毒を持つ危険なクモの恐怖を描き、フランスで異例の大ヒットを記録したパニック映画『スパイダー/増殖』(公開中)がついに公開。人知れず毒グモの巣窟と化したアパートからのスリリングな脱出劇が描かれる。黒い体に8本足、8つの目を持ち、毒を持つ種もいるクモは、最も恐れられている身近な生き物の一つで、映画の世界でも忌まわしい怪物として数多くの作品に登場してきた。そこで、スクリーンで人々を戦慄させてきた代表的なクモ映画を紹介したい。 【写真を見る】放射性物質によって巨大化したタランチュラが大暴れする『世紀の怪物 タランチュラの襲撃』 ■本物のクモ、アニマトロニクスを駆使して撮影された『アラクノフォビア』 「インディ・ジョーンズ」シリーズ、『太陽の帝国』(87)など、スティーヴン・スピルバーグ作品を支えてきた製作者フランク・マーシャル。数々のヒット作を手掛けたマーシャルの初監督作品が、妻であるキャスリーン・ケネディ製作、スピルバーグ製作総指揮のクモ映画『アラクノフォビア』(90)だ。本作に登場するのは、アマゾンで発見された猛毒を持つ新種。昆虫学者のチームに紛れてアメリカに渡り、家グモと交配して増殖する。 本作が製作されたのは『ジュラシック・パーク』(93)の3年前。毒グモはCGではなくニュージーランドに生息する大型種キズナアシダカグモを中心に、300匹を超える本物を使用した。ドアの隙間や排水口など、あらゆるところから湧き出る姿は圧巻!クローズアップや相手を威嚇するなど“演技”が必要なカットには、アニマトロニクスが使われた。ジョン・グッドマン演じる害虫駆除業者が笑いを誘うなど、スリルとユーモアのブレンドも魅力的な作品だ。 ■クモ系怪獣映画の元祖『世紀の怪物 タランチュラの襲撃』 1955年公開の『世紀の怪物 タランチュラの襲撃』はクモ系怪獣映画の元祖。食糧難に備えて行われた家畜を巨大化させる栄養剤の研究で、18メートルの巨大タランチュラが誕生する。50年代は放射能を浴びた動物や昆虫が巨大化する“原子怪獣”がブームになったが、本作もその一つ。放射性物質を使った栄養剤が怪獣グモを生みだすが、食糧問題という着眼点がユニークだ。 タランチュラのVFXは生きたクモを実写に合成するシンプルなスタイルだが、家屋を壊し、フリーウェイをのし歩く姿はモノクロ映像と相まって不気味な味わいを醸している。軍はナパーム弾で怪獣グモに応戦するが、戦闘機のパイロットを演じているのが無名時代のクリント・イーストウッド。ヘルメットと酸素マスクをしているが、その目でイーストウッドと認識できる。 ■CGで再現された様々な種のクモが巨大化し、群れで襲って来る『スパイダー パニック!』 『インデペンデンス・デイ』(96)、『GODZILLA/ゴジラ』(98)のローランド・エメリッヒ、ディーン・デヴリンのコンビが挑んだクモ映画が『スパイダー パニック!』(02)だ。産業廃棄物の影響で様々なクモたちが怪獣化して暴れだす。50年代の原子怪獣テイストをリアルなCG映像で再現した痛快作で、オニグモをはじめ、トタテグモ、ハエトリグモから定番タランチュラまで多彩なクモが登場。群れで街を走り回ったり、バイクとチェイスしたり、バスやタンクローリーを襲撃するなど派手な見せ場の連続だ。 人間に向かって飛び跳ねながら襲撃したり、糸で絡め取ったり、巣穴に引きずり込むなど、種の特性を生かした“捕食”シーンもお楽しみ。歯切れよいアクションとコメディタッチの展開が楽しい痛快エンタメ作になっている。なお、ヒロインの娘役で10代だったスカーレット・ヨハンソンが出演。果敢に怪物グモに立ち向かったり、糸でぐるぐる巻きにされたりと、絶叫しながら熱演する姿にも注目してほしい。 ■「ゴジラ」や「ハリー・ポッター」、「ロード・オブ・ザ・リング」にも登場した巨大グモたち ほかにも宇宙から来たクモが巨大化し、人々を襲う『ジャイアント・スパイダー 大襲来』(76)、大量のタランチュラが襲い来る『巨大クモ軍団の襲撃』(77)、エイリアンのDNAを持ったクモが巨大化する『スパイダーズ』(00)や地底から大型種が現れる『アラクニア』(03)など、挙げていけばきりがない。脇役系でも『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』(67)でクモンガがデビューし、『キングコング:髑髏島の巨神』(17)には竹に擬態するバンブー・スパイダーが登場。『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(02)や『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』(03)などファンタジーでも存在感を発揮と、まさに虫系モンスターの王者といえる。 ■閉鎖されたアパートを舞台に、増殖し、ビッグサイズに成長していく毒グモの恐怖を描く『スパイダー/増殖』 そんなクモ映画の最新作が『スパイダー/増殖』だ。パリ郊外の古びたアパートで暮らす爬虫類や昆虫を愛好するカレブ(テオ・クリスティーヌ)は、闇ルートで輸入された希少な毒グモを入手。ところが彼が目を離した隙にクモは箱を抜けだし、アパート中で産卵を繰り返しながらしだいに巨大化していった…。最初は一匹だった毒グモが瞬く間に増殖。アパートは巨大なクモの巣窟と化していく。どこに潜んでいるかわからないサスペンス、群れをなして襲い来るスリルがたっぷり味わえる。 本作に登場するのはイトグモ。イトグモ科のクモは捕食者から卵を守るため大型化するそうで、天敵の少ない砂漠から街に連れて来られたことで急速に巨大化。数センチから数十センチ、ついには車を威嚇するほどのビッグサイズになっていく。撮影には長い脚を持つアシダカグモ200匹が使用され、自在に動き回るカットや巨大化した姿はCGで描かれた。 監督は短編映画で活躍し、本作で長編デビューを飾ったセヴァスチャン・ヴァニセック。好きなジャンル映画に『エイリアン』(79)や『ジェヴォーダンの獣』(01)を挙げており、本作もショック演出よりも不気味な雰囲気重視の構成になっている。また、フランスで社会問題になっているバンリュー(移民が多く貧困率が高い都市郊外)を舞台に、底辺でくすぶる若者を描いた社会派作品としても見応えがある。 ワールド・プレミアが行われた第79回ヴェネチア国際映画祭をはじめ各国の映画祭に招待され、第56回シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭では審査員賞を受賞した『スパイダー/増殖』。本作を目にしたサム・ライミは早速ヴァニセックにコンタクトを取り、「死霊のはらわた」シリーズのスピンオフ作品の監督&共同脚本に起用したという。スティーヴン・キングも絶賛した本作は、新人ならではの勢いと才気にあふれる意欲作なのである。 文/神武団四郎