女子W杯V奪回狙う、なでしこJ監督はなぜ3年連続得点王と川澄、永里ら一部ベテランを外したのか?
なでしこジャパンを率いてからは、かつて指導した若手を積極的に登用。既存の選手と切磋琢磨させてきた結果、5年前の世界一メンバーからDF市瀬菜々(マイナビベガルタ仙台レディース)、DF宮川麻都、MF長谷川唯、FW小林里歌子(ともに日テレ)、DF南萌華(浦和レッズレディース)、MF杉田妃和(INAC神戸レオネッサ)の6人がフランス行きの切符を手にした。 特に南と宮川は、昨秋のFIFA・U-20ワールドカップでも優勝を経験。このときのチームからは19歳の植木理子、18歳の遠藤純(ともに日テレ)もFW陣のなかに食い込んできた。 つまり、2011年の優勝メンバーだったMF坂口夢穂(日テレ)、DF鮫島彩、FW岩渕真奈(ともにINAC)、DF宇津木瑠美(シアトル・レインFC)、DF熊谷紗希(オリンピック・リヨン)を含めて、フランスに臨む23人のなかで13人が世界制覇を経験していることになる。 「私はずっと育成に関わってきましたけど、素晴らしい若手はたくさんいます。いままで輝かしい成績を収めた選手たちと若手を融合させて、新しいなでしこジャパンを作っていきたい」 就任時にこんな所信を表明した高倉監督は、まさに青写真通りにチームを作ってきたことになる。たとえば身長167cm、体重55kgとサイズがある、JFAアカデミー福島を卒団したばかりの遠藤への評価を介して、経験の浅い若手たちへのエールにも聞こえる言葉を会見で発している。 「左利きで突破からシュートにいく形は素晴らしいものをもっていますし、体も大きく、当たり負けしない強さとスピードもある。若手選手には大会中に何かのきっかけで大きく伸びて、爆発的な力を発揮してくれる可能性もあるので、大きく期待しています」
長く日本の課題とされてきた世代交代が推し進められてきた間に、世界の女子サッカー界は劇的に変わっている。なでしこジャパンのワールドカップ制覇とともに、特にヨーロッパ勢が女子代表の強化に注力。日本よりも恵まれた身体能力に、細かいパスワークを融合させてきた。 アメリカとドイツの二強に日本が割り込んだ勢力図には、フランスやイングランド、オランダ、スウェーデンでだけでなく、カナダやオーストラリアまでもが台頭。3月に更新された最新のFIFAランキングで日本は7位に、2000年代に強さを誇ったブラジルは10位に甘んじている。 ランキングがすべてを物語るわけではない。それでも就任以来、積極的に強豪国とのテストマッチを組み、アジアでの公式戦を含めて22勝7分け14敗の星を残してきた高倉監督は「ここまでの勝率を見ても、圧倒的な強さをもって戦うことは難しい」とフランスの地での覚悟を決めている。 「近年、女子サッカーのレベルが急速に上がっている。その点をチーム全員が自覚し、あるときは何かを壊し、また新たに作りあげるという作業を繰り返しながら一丸となって、強い思いをもって頂点へ向かっていく。その過程で選手たちには勇気と創造する力、そして献身性を求めていきたい」 グループDに入った日本は現地時間の来月10日にFIFAランキング37位のアルゼンチン、同14日に20位のスコットランド、同19日に3位のイングランド女子代表とまず戦う。3度目の出場となるアルゼンチンは過去未勝利で、スコットランドは初出場となるなかで、3戦目のイングランド戦が最初の正念場となるだろう。 優勝した2011年大会のグループリーグでも敗れているイングランドには、今年3月にアメリカで開催された国際親善試合でも0-3で屈した。それでも高倉監督は「後ろ向きには戦いたくない」と悩んだ末に田中らを外し、リストに書き込んだ選手たちに期待を寄せた。 「攻撃を考えたときに、たとえ劣勢であっても3、4人がコンビネーションを作れば、鉄のディフェンスを作る、大きくて強い選手たちを翻弄する崩しができるのではないか。難しい挑戦ではあるけど、優勝を目指さない限り目標を手にすることはできない。本番にしか漂わない緊張感があるし、不測の事態も起こると思うので、優勝経験のあるベテランの選手たちには経験を生かしてチームを支えてほしい」 アメリカ、フランス、ドイツが1位突破すると仮定した場合、日本がグループDを1位突破すれば準決勝まで優勝候補国との対戦を回避できる。2位ならば決勝トーナメント1回戦で、カナダかオランダの躍進国が待つ。だからこそ、難敵イングランド戦が今大会の日本を占う試金石になる。 「令和という新しい時代に、強い光をもって来られるように全員で戦ってきたい」 過去の栄光をかなぐり捨て、挑戦者に戻ったなでしこジャパンは22日に集合。国内での短期合宿を行った後の27日に渡仏し、来月2日のスペイン女子代表との国際親善試合をへて開幕に備える。 (文責・藤江直人/スポーツライター)