コワモテ国家ハンガリーが、異次元の優しい家庭政策で出生率アップに成功している
若者の国外流出を止める教育
この機関は、ハンガリーとその周辺国に住むハンガリー人の若者の才能を育てることを目的とした、教育・研究センターだ。96年に設立され、15世紀の著名な王マティアス・コルビヌスにちなんで名付けられたMCCは、無料の補習教育を通して、グローバルな国際関係を理解し、ハンガリーの発展に貢献するリーダーの育成を目指す。 MCCには法律、経済、心理学、メディア、国際関係、社会科学・歴史、リーダシップアカデミーという7つのユニットがあり、世界中から講師を呼び寄せ、セミナーや授業を無料で開催している。ハンガリーの少数民族、ロマ・コミュニティーや女性のリーダー育成の支援もしており、スロバキア、ルーマニア、ウクライナ、セルビアにも地域センターを設置している。 24年度から25年度には、10代前半の学生から30代の若手社会人まで幅広い年齢層の学生が約8000人、MCCに在籍している。ただし、誰もが入れるわけではない。いくつかの選考プロセスを経て入学が決まる。 ラーンチィ・ペーテルMCC副総局長は「学生の受け入れに当たっては、成績のみで判断することはありません。人格、向上心、課外活動への参加、地域社会を改善したいという意欲を示す学生に関心を持っています。また、プログラムは無料であるため、恵まれない学生にも届くよう努めています」と話す。 ミシュコルツ大学で法律を専攻し、国際犯罪調査に関わる仕事に就きたいというボッドナー・リッラ・ドリナは、「MCCのおかげで法律分野で実績のある方々と交流する機会に恵まれ、彼らの経験から、貴重な洞察を得ることができました。また、無料で外国旅行をする機会を提供してくれ、グローバルな視点を持つことができました」と話す。 同大学でマーケティングを専攻しているベンチク・タマーシュは「大学でのレクチャーよりも実践的なクラスが気に入っています。エコシステムのスタートアップでインターンをするなど、国外で実際に活動をするプログラムもあるところもMCCのよいところです」と語る。 教育機会提供だけでなく、MCCには若者の国外流出を防ぐという重要な役割がある。「他の中央ヨーロッパ諸国と同様に、多くの若者がよりよい機会を求めて西欧へ流出しています。国外での経験を得るための国際フェローシップを提供すると同時に、ハンガリーに戻り、自らのスキルをハンガリーの利益のために役立てるよう学生たちに奨励しています」とラーンチィ副総局長は言う。 こういったハンガリーの国策が功を奏しているのだろうか。11年から21年の間に、主にドイツ、オーストリア、イギリスから17万3000人のハンガリー人がハンガリーに帰国しているという。 ■少子化対策に「魔法の杖」はない ノバーク前大統領はこう締めくくる。「家族政策だけで少子化が解決すると思うのは間違い。子どもを持つか持たないかを決める際に、私たちは教育、医療、社会福祉、経済、安全保障などあらゆることを考慮します。人々が子どもを持ちたいと思えるように、政府は最高の公共サービスを提供しなければなりません」 少子高齢化を防ぐ魔法の杖はないだろう。だが、少なくともハンガリーは、経済が家族のために機能しなければ、家族も経済のために機能しないということを理解している。
此花 わか(ジャーナリスト)