コワモテ国家ハンガリーが、異次元の優しい家庭政策で出生率アップに成功している
あまりに充実したハンガリーの家族政策
ハンガリーの家族政策は、「家族の経済的支援」「住宅購入支援」「家族に優しい環境づくり」「ワークライフバランス」「子どものウェルビーイング対策」の5つの分野に分かれており、各分野には多数の施策が存在する(上記図表参照)。 これらの施策は、まだ子どもを育てる資金のない学生でも、若いうちに子育てができるように設計されている。なぜなら、どの先進国でも、キャリアや経済的安定を待っているうちに結婚や出産が遅れ、その結果、子どもが欲しくても妊娠が難しくなる年齢に達するカップルが増えているからだ。 さらに、祖父母、父親や母親が3年間みっちり育休を取っても、母親が好きな形で職場復帰でき、子どもが3歳になるまで親は残業禁止という点も、日本の少子化対策にはない視点だ。 「ハンガリーの家族政策は、女性が望む働き方をサポートします」と強調するノバーク前大統領。興味深いことに、ハンガリーでは、10年から22年まで働く女性の割合は59%から75%まで増えたのに、出生率も同期間で1.25から1.52まで上がった。子どもがいても働きやすい環境があるのではないか。 そもそも、子どもがいようがいまいが、仕事以外の生活を大切にし、人生を楽しむ価値観がハンガリーには根付いている。実際に日曜日は多くの店がシャッターを下ろす。 ハンガリーでは法律で残業が認められているのは年間250時間以内。一方、日本は360時間以内。OECDは「長時間労働=週50時間」と定義しており、日本人の15.7%が週50時間以上働く(OECD41カ国中36位)半面、ハンガリーは1.5%しかいない(OECDで8位)。 「ウェルビーイング」とは、幸福で肉体的、精神的、社会的全てにおいて、満たされた状態で持続的な幸福を指すが、ハンガリー政府は子どものウェルビーイング施策の1つとして、「エリザベス・プログラム」に今年、2280万ユーロ(約37億円)を費やした。 これは観光地として人気のバラトン湖の畔にある別荘で行われる、ヨーロッパ最大のキャンプで、子どもたちが長期休暇を過ごせる幅広いアクティビティーが提供されている。12年から24年まで計約140万人の子どもたちが訪れた。 このように「ワークライフバランス」や「子どものウェルビーイング」など、「国民は心身共に満たされ幸福であるべきだ」という視点がハンガリーの家族政策の重要な軸となっている。 さらに、家族政策における住宅購入補助プログラムは建築業界の雇用を生み出し、11.2%だった10年の失業率が22年には3.6%まで下がった。「人々は家と同時にさまざまな商品やサービスを買います。つまり、これは経済全体が活性化されるということ。課題はありますが、税収も上がり経済効果を出しました」とハンガリー国際問題研究所のバシャ・ラースロー博士は言う。 このようにリベラルな政策を実行しているオルバン政権が西側諸国から批判されがちなのはなぜか。 「オルバン政権は親ロシア派や親中国派だと報じられるときがありますが、実際は親ハンガリー派。つまり、ハンガリーの国益を一番に考えてあらゆる国と友好な関係を築く現実的な外交政策を取っているのです」と、政治と国際関係の専門家であるスティーブン・ナギ国際基督教大学教授は言う。「どの国からも指図されたくはないのでは」 つまり、ウクライナ戦争や移民政策において、やすやすと西ヨーロッパの思惑に迎合しないからハンガリーはたたかれている、というわけだ。 だが、課題もある。ブダペスト郊外に住む、小学生の子どもが2人いる会計士と営業職の共働きの夫婦に聞くと、「生活は楽ではありません。保育園から高校まで公立で学費は無料ですが、英会話やスイミングなどの校外活動にお金がかかります」と話す。 その一因は、家族政策の財源となっている世界一高い27%の消費税だろう。ただし食べ物やエネルギーなど生活必需品は比較的安い。ハンガリーの中間層は普段は外食やショッピングなど贅沢を極力控えるが、週末はピクニックやスポーツを家族と楽しんだり、友達や親戚を自宅に招いたりして、夏と冬は家族でゆったりと旅行へ行く。 家族政策だけではない。ハンガリー政府は未来のハンガリーを牽引する若者を育てるユニークな教育プログラム「マティアス・コルビヌス・コレギウム(MCC)」にも出資し、効果を上げている。